『算数の文章題が10日で得意になる方法』
菊池洋匡・春原弥生マンガ
あさ出版
\1400+
2025.9.
同業の本というのは、気になるものだ。中学受験の算数のためのアドバイスとなると、覗いてみたくなる。
本書は、タイトルには直接書かれていないため、もしかすると中学受験をしない子が、たんに文章題のために手に取る可能性がある。特に背表紙は全くそうだ。ところが表紙の右隅に、「中学受験算数カリスマ講師直伝」という文字が見える。これは明らかに、受験の算数である。
10の章に分けられており、扱う文章題の型を並べると、「植木算・方陣算」「和差算・分配算」「還元算・倍数算」「速さ・仕事算」「特殊な旅人算・通過算・ニュートン算」「つるかめ算・平均」「食塩水」「特殊なつるかめ算・いもづる算」「消去算・代入算」「差集め算・過不足算」となっている。
殆どが、マンガ仕立てである。各章の最後に、普通の算数の参考書のような図解や解説が簡潔にまとめるように示され、練習問題も少し載っている。そして、より整った形でのアドバイスの文章がある。
マンガを描く方も、よほど算数を教えることに通じていなければならないだろう。あるいは、著者の徹底した指導があったのだろうか。マンガそのものも、軽快で、なかなかよく描かれている。受験の算数を教えるという点では、非常にオーソドックスな、見事な説明がなされていると思う。
伸学会という学習塾については知らなかった。東京らしいから、あまり縁はない。きれいなウェブサイトがあったが、あまり新しい情報がなく、現時点で半年ほど更新がなされていないように見えた。
本書によると、著者である主宰者は、四半世紀ほどのキャリアがあり、算数オリンピックで銀メダルという、華々しい経歴をもつらしい。算数オリンピックというものは、このようなパターン化された解き方が全く通用しない世界であり、私も市販されている問題を見たことがあるが、殆どが難儀なものだった。もちろん、解けるものもあるのだが、受験の算数のように、時間内に解決が見つかるという代物ではない。だが、そうした発想を経た上での、オーソドックスな何々算の解説というのは、非常に整備されたものとなる。大きな器をもつ人が、小さな仕事を難なくこなすようなものである。
そう。解説は見事である。受験したい小学生が、この本はどうですか、と尋ねてきたら、いいよ、と薦めてよい。マンガによるものとはいえ、その子が解き方を本当にマスターできるかどうかは、その子によるだろう。誰でもうまくゆく、とは思えない。やはり、人がそこに向き合っていて、ここに気をつけるとか、もっとこのようにとか、具体的にアドバイスをするのが最も効果的であることは言うまでもない。
そこで、皮肉な用い方ではあるのだが、私は本書は、これから塾で算数を教える講師が学ぶのに最も相応しいのではないか、と見た。申し訳ないが、私は当然斜め読みですべて言おうとしていることは分かる。しかし、「塾で教える新人は、本書を一つひとつ丁寧に辿ることによって、教え方がよく分かるだろうと思う。
マンガは、ただ解き方を語るだけではなく、まずその問題がどういう場面で発生するか、といった具体的な姿から描き始めることが多い。そして、現れた問題に対して、ただこうすればよい、というばかりでなく、こうしてはいけない、というようなところ、間違いやすいところなども、随所で触れられている。
教える側ができることで教えるのも巧い、とは限らない。自分は分かるのにどうして相手は分からないのだ、という苛々を覚えるときもあろう。だが、それでは塾教師は成り立たない。教えるということは、相手の陥りやすいミスをよく知るのでなければ、うまくゆかないものなのだ。このマンガには、単に解き方だけでなく、そうした難点がなかなかうまく描かれているので、私はよいと思ったし、教える側のためにぴったりだ、と感じたのである。著者からすれば、不満な感想かもしれないが、これはそのように宣伝すると、きっともっと売れるであろうと私は考えている。

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