本

『サンゴは語る』

ホンとの本

『サンゴは語る』
大久保奈弥
岩波書店
\1450+
2021.5.

 岩波ジュニアスタートブックスなるシリーズが始まった。かつては岩波新書が学生の読むべきものとさえ考えられていたが、それが岩波ジュニア新書へと降りてきた。そしていまや、このシリーズだ。イラストたっぷりで、すっかり軟化している。その分価格が高いように感じるので、さて中高生がどれほど手に取ることになるか、そこは商売の問題となるだろうか。
 とにかく表紙が可愛い。イラストは「アトリエ静寂(しじま)」によるものだが、脱力感丸出しで、かわいいとしか言いようがない。私もこの絵で手に取った。幾つかのイラストと共に「お尻、ぐりぐり。」とか「やっほー うまれたよー」とか手書きの太いカラー文字で書かれているのだ。
 さて、外観はそのくらいにして、内容に入る。これは、サンゴ大好き人間による、極めてマニアックなサンゴの紹介である。サンゴを飼育しているというから、その観察報告は確実だ。それにしてもサンゴは、私たちが普通に考える動植物の概念を超えている。どうやって生きているのかさえ怪しいし、どうやって増えるのかということについても、理解が難しい。それを、この気の抜けたようなイラストがふんだんに載ったものに、中学生領域の感じにはふりがなたっぷりで行間たっぷりに書かれているのだから、読んでいくときにもうニヤニヤしてしまうばかりだ。
 語りは、ヒメサンゴが主人公としてずっと語っていくスタイルをとっている。これもまた場面に飛び込める要素となっている。サンゴの性質や生態を紹介していくのはもちろんだが、それにはもちろん目的がある。あるいは、読者に必ず考えてほしいと思っている課題がある。自然保護の問題だ。沖縄では、政治目的のために珊瑚礁が潰されている。但し、これはいまに始まったことではなく、半世紀前辺りで大きく減少している現実もあるので、人間はずっと同じようなことしか考えつかないようだ。しかしサンゴはとてもデリケートである。よそに運べばいいというわけではないということにも触れてある。
 生命に対する愛おしさ。それがここではサンゴに向けられている。それでも、サンゴだけに留まらない。生命全体であり、地球環境全体である。それは環境保護問題から、SDGsという考え方にもつながっていく。そう。サンゴは、絶滅への道を歩み始めている生物なのである。
 言葉は優しいし、ふりがなまで付いているわけだが、どういうわけかその説明は一読しても分からない内容である。頁の周辺部がピンクであるのと、見出し文字もピンクであるので、本文中にピンクの語があってもさほど違和感がないことになるが、本文中のピンクは、要するに生物学用語であり、専門用語であるわけだ。これが何パーセントを占めるだろう。塾で中学生相手に理科を教えていても、口にしたことのないような用語がばんばん登場する。そしてその合間に、あの脱力系のイラストが居並ぶ。なんともアンバランスな構成であるが、それが魅力というか、癖になりそうでもある。
 サンゴを扱うときの注意があるのは、飼ってみたくなる人を想定しているのだろうか。参考図書が紹介され、世界を広げる道が用意されているのもよいと思うし、QRコードから、写真や動画、さらなる文献などが紹介されているウェブサイトにつながるというのは、素敵なサービスであると言えるだろう。
 サンゴ愛に溢れた本書、自然への愛を育んでくれること、間違いない。すてきなイラストは、著者の妹であるというから、心通ったサンゴ愛の故に、本書は生まれたのだということが信じられる。主人公のサンゴが語る言葉は、もちろん著者が語っているのだが、本当にサンゴが語っているものだという世界に引き込まれていくことを快感にするのもいい。そして、自分がこのサンゴを苦しめているということにも気づくことで、少し辛い思いになるのもいいものだ。




Takapan
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