本

『讃美歌への招待』

ホンとの本

『讃美歌への招待』
白井健策
日本基督教団出版局
\2200+
1999.5.

 朝日新聞の天声人語の執筆者でもあったという紹介の著者は、その肩書きにまず魅力を覚える。天声人語というのは最高のネームバリューのあるものかもしれない。
 この方がクリスチャンであって、雑誌『婦人の友』に連載していたものがまとまったという本である。副題に「音楽随想」と付けているのは、これが特別学問的な背景をもっているのではなく、ただ讃美歌が好きで、少しばかり関心をもって調べたものを含め、あとは自分の個人的な感想や思いを綴ったものだ、というような意味であろう。謙虚な触れ込みである。だが、内容としては堂々と讃美歌研究にも値するほどのものがあり、大いに勉強になるものであった。
 だから、「招待」というのは確かに招待なのであって、讃美歌をいくらかでも知る人にはこたえられない内容となっているし、知らない人でも、その魅力が十分伝わるものになっているのではないかと思う。その意味では、さすがの文章力である。筆致の技については申し分ない。
 実際に載せるのに手続きなど大変だったのではないかと思うが、実際にその讃美歌の楽譜が掲載されているというのは、非常に有難い。書かれてあることが本当だと知ることができるし、讃美歌を手に比べれば分かるというのでは、それをいま有している信徒ならばよいにしても、一般の方には何も伝わらないわけで、ベストな方法であろうと思う。
 こうして讃美歌と普通呼ぶものは、1954年の教団讃美歌と言われているもののことであり、これが一応スタンダードなものとして長いこと定着してきた。ただ、この連載中であろうか、新しい『讃美歌21』というものが発行された。それで筆者は、それを時折踏まえて、その変化や考え方なども併せて紹介している。これは、讃美歌をどう理解するか、そしてこの半世紀に社会状況がどう変わってきたのかなどを含めて、味わい深い解説となっている。その変わり目のことが書かれているという点でも、いまなおこの本に触れる意義があろうかと思われる。
 また、讃美歌の解説という筋を外すことはないが、ワンパターンの説明のような印象を与えず、それこそ天声人語が様々な角度で事象を伝え主張をしたり問いかけたりするのと同様に、いろいろな形で私たちに讃美歌の世界を伝えてくれるのがうれしい。歴史の話から入ったり自分の身近な体験から、あるいは誰かのエピソードといったふうに、入口がたくさんあるのは読み物としても厭きさせない。
 いや、本当にこの讃美歌に触れあっていても、知らなかったことが沢山あることで驚いた。教えられることばかりで、一つひとつの話が、また誰かに語るときのネタになるほどのものである。これは、説教者は手許に置いていて損はないだろうと思われる。讃美歌の創作の背後に何があるのか、どんな思いが潜んでいるのか、それがどう愛されてきたか、など、多角的に紹介されるのである。
 讃美歌の紹介であるようでいて、その文章には「大きな蛇の目」という題がついていて、「アメアメ フレフレ、カアサン ガ」の北原白秋の歌詞が延々と述べられていくばかりであった。最後に讃美歌21のある曲がわずかに出てくるから、タイトルのとおりに、これはまるで北原白秋の詩の説明であるかのようにすら思える。だが、その讃美歌と重なるものが何であるかを伝えることにより、この蛇の目の詩が福音となっていくから不思議だ。そしてここには、親が子にしてやれることの最大のものが明確に叫ばれていて、私は心に染みいった。「私は常々、親が子に残してやれる最高の財産というものは、子どもの人生の最初の段階で親が培ってやることができる、この「基本的信頼感」であって、金銭などはまったくくらべものにならないと思っている。」だから、大人になっても心の中に「蛇の目」があるはずだというのですが、これだけでは何を言っているのか、伝わらないだろう。ぜひ本編をお読み戴きたい。これは、私の子育てのポリシーでもあったので、これを読んで涙したというのも本当だ。
 ハードカバーでなかなか値の張る本であったが、いまは古書で入手できるから、お探しであれば数百円程度で読むことができそうである。私はたまたま古書店の店頭で見つけた。すぐに読みたくなって購入した。読んで満足だった。




Takapan
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