『災害の心理』
清水將之
創元社
\1890
2006.8
精神科医の著者ということで、これは心理学の本ではない、と予め断ってある。「隣に待ちかまえている災害とあなたはどう付き合うか」というサブタイトルがついている。
書き方は謙虚である。立ち読みしている人は目次だけでも読んでほしいとか、少し理屈っぽいがここで読むのをやめないでくれとか、優しい口調で綴られている。
それにしても、実入りの多い本であると思った。ためになる。役に立つ。人の心を感じる。
戦争をはっきりと災害だと宣言している。虐待もまた、子どもにとっても災害である。
この明確な視点がいい。著者は、この本では、必ずしも論旨が一つになって流れておらず、読みにくかったことだろう、と気を遣っているが、私の印象では、そんなことはない。私たちができるだけ広い意味で捉える「災害」というものが、どのような現象として現れ、それに対して人の心が如何に傷つくのか、そのことに「気づき」をもつということの、現実的な欠如と、それへの真摯な問いとが、貫かれていたように感じた。
とくにまた、最後のボランティアにおける心理の描き方がいい。してやっているようなボランティアは、むしろ傷つけに行くようなものであり、ボランティアによって、教えられる思いで満たされる、というのである。
私の乏しい経験でも、まさにそうなのである。
教会活動もまた、一部では、ボランティアの精神から行われていることがある。その場合にも、この指摘は、重く受け止めていくがいいと思う。
良心的な本である。弱い立場の人を大切にする本である。多くの人に、読んで考えて戴きたい。