本

『探テク』

ホンとの本

『探テク』
小林シンヤ
日本実業出版社
\1365
2007.3

 私たちはものをよくなくす。どこにいったか、とんと知れない。後で、意外なところから見つかって驚くこともある。ついに見当たらないものは、いったいどこへ行ったのか。私たちは、探している時間が、意外と多い。精神衛生上もよくない。この本はまさにそのことにこだわった一冊である。
 派手な装丁で思わず手に取るが、その内容の斬新さには驚く。いや、こうした当たり前のようなことに触れた本が、ちゃんと商品になるのだという気持ちがそこにある。あるいは、こうしたことさえもマニュアル化されなければならない私たちは、いったい自分でものを考える気があるのか、考える力があるのか、と怒りたい気持ちにもなってくる。
 しかし、面白いのだ。
 まさに膝を叩いて、「ある、ある、ある……」と思わず叫んでしまう本となった。物忘れ、紛失について、どのようにチェックすればよいのか、こんなところを調べよといった、場面に分けた徹底的な追究が行われるのである。
 ありそうでなかった本ではないか。小さな写真で、インパクトのある説明を繰り返すし、時に考え方をフローチャートで示している。まさに、落とし物や忘れ物、遺失物についての、マニアックな本である。よくそれだけでここまで一冊が作れる、というような。
 小学生のときに、初めて購入したプロレスのチケットを紛失してから、どうしてものを失くすのだろうとの疑問に立ち、人生をその問題に懸けてきたのだという著者である。そこには、人生がこめられている。
 あまりそれを明かしてしまうともったいないのだが、この人は、ものを探すことについて、哲学をもっている。それは人生を豊かにするものなのだという確信とともに、それを実例の中で根拠付けしているようにも見える。安易な成功談の本を尻目に、自分の人生を見つめ高めていく行為として、もの探しを配置する。それは十分広く傘下におさめるごとくに論じられてはいないかもしれないが、たしかに生活の中でもの探しをよくしている私としては、うんうんと肯くしかなかった。
 目から鱗が落ちることもあるかもしれない。生活や人生を、思わぬ姿で考えさせられることになるかもしれない。
 読む人それぞれに応じて、インパクトを与えていく、愉快な本であった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります