本

『身近な両生類・はちゅう類観察ガイド』

ホンとの本

『身近な両生類・はちゅう類観察ガイド』
関慎太郎写真・文
文一総合出版
\2310
2008.10

 図鑑だとは言えないが、図鑑的要素はある。図鑑なら、すべての種について調べられるように並べられていることだろう。だがこれは、偏った紹介になっている。多くの種が紹介されているが、観察するという視点から、見られやすいもの、見ておきたいもの、見て区別すべきもの、そうした意味で、的確に編集されている。
 それにしても、この表紙から、微笑ましい。一匹の蛙が正面を向いている。かなり大きな写真である。なんとも言えない。観察ガイドであるが、まるでこちらが観察されているかのような感覚に襲われる。
 何事もこの調子で、この本は開けば開くほど、想定外の展開に驚かされ続ける。そのびっくりするところを全部ここで紹介してしまうのは、ネタバレのようでもったいないように思う。
 観察の場所や観察のポイント、その動物たちの置かれた現状などを踏まえた、丁寧な説明。それらは、著者がいかに彼らを愛しているかということを強く感じさせるに相応しい。愛していなければ、こんな本は作れない。こんな文は書けないし、こんな写真は撮れない。
 私はとにかく、写真に笑い、驚き、うなるばかりだった。そして、どの写真を見ても、目を細めるような思いがし、あるときには、こんな彼らを押しつぶすように自然を壊していってはならないのだと改めて思わされるのだった。
 ユニークな写真が多い。カエルだけでも、p8,11,33,41,72,86,124,129,141など、心に強く残った写真がある。
 学術的な知識を求めるには相応しくないかもしれない。だが、同じ生き物としての愛を感じるなら、この本は類書を凌ぐすばらしさがある。愛に溢れているということだ。「かわいい」だけでは終わらないが、たしかに「かわいい」と口をついて出てくる、そのバランスがいいと思う。可愛いと思えるからこそ、ではどうしたらよいだろうか、という思いに駆られるからだ。その思いを、何か実行していけるようだったらいいのだが、と思わされる。
 福岡県では、トノサマガエルが見られなくなってきている。県内絶滅が危惧されているのである。私も何年も見ていない。




Takapan
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