本

『まんが 焼けたロザリオ』

ホンとの本

『まんが 焼けたロザリオ』
しおうらしんたろう
聖母の騎士社
\1260
2009.9.

 まんがである。タイトルの前には「原爆を生き抜いた少年の…」と、後には「数奇な運命と新たな心の世界」というサブタイトルがついている。とても真面目なまんがである。
 聖母の騎士社というのは、コルベ神父に由来する、長崎のカトリックの団体である。故あって私は少し知っている。ここがいわゆる「まんが」を出版するのは珍しいように思う。最近そういう傾向があるのだとしたら、それもよいことだ。
 丁寧に作られた本である。カラー頁が多い。そのための価格であろうとは思うが、法外に高いわけではない。どうも、原作は一度1980年代に別の形で出ていたのが、このたび美し再登場した。それだけの価値のある内容だったということなのだろう。
 教育的な側面からいうと、詳細に教え込もうというほどではないが、最低限の知識を子どもたちに与えてくれるような配慮が随所にあるのが分かる。あまり「学習」的でないのは心理的に読みやすい。いろいろ考えて作られているのだろうと思う。もちろん、ふりがなの配慮はちゃんとあり、ひらがなさえ読めればストーリーについていける。原爆の惨い図が若干あるので、子どもの手に与えるときにはそういうことについて子どもがどう受け止めるかを考慮の上で与えて戴ければと思う。
 さて、内容だが、田川少年が主人公である。その生い立ちが、戦争を舞台に語られる。カトリック信徒の母親に守られて育つ中、体が強くなかった少年は、修道士に一時憧れるも、国情に引きずられてしばらくそれを忘れる。場所は長崎。原子爆弾のとき隠れた場所にいた少年は生きながらえるが、母親は死亡。瀕死の状態ですがる幾人かの人を振りきって少年は生きる。だが、その後気づく。助けを求める人を捨ててきたのは罪だ、と。
 こうして修道士となった少年は、いきなり老人となって現れる。これが、小崎登明である。かつての26聖人のひとりの名を戴いたこの人は、コルベ記念館の館長を務めている。80歳を越えてなおブログに日々思いを綴っているというから、なかなかお気持ちも若いようである。被爆者の一人として、平和学習活動にも常々協力しているという。
 このまんがの出版のことも、くわしく記されているサイト「小崎登明の部屋」というものもある。こういう時代、この意気込みが大切だ。体の弱かった少年が、被爆体験を経てなお、こうして長寿の中に名を連ねているというのは、神にそのための役割を与えられたということにほかならない。
 このまんが、私は、古書店で見つけた。あまりきれいで、そして安かったので、入手したのだが、こんな偶然の出会いが、また人との出会い、さまざまな経験の基となる。これもまた、神の導きなのだろう。
 これはプロテスタント教会に並べられていてもさほど違和感がない内容だと思う。戦争の記憶が遠のく時代だからこそ、こうした証言を今の大人が真剣に継承していかなければならない。そのためにもよい本だと言える。




Takapan
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