本

『論理学がわかる事典』

ホンとの本

『論理学がわかる事典』
三浦俊彦
日本実業出版社
\1,600
2004.2

 A氏は、身長196cm、体重120kg、毎日プロテインのドリンクを飲み、筋力トレーニングをしています。博識で温厚ですが、傷だらけの凶暴そうな顔つきが特徴的で、路上でよくサインを求められます。10年前には正当防衛でヤクザに大怪我をさせたとか。さて、A氏について、次のどちらが正しそうでしょう。確率の高いほうを答えてください。
 1.古本屋の店主   2.元プロレスラーの古本屋店主

 長々と引用したのをお許し願いたい。で、正解はどちらか。もちろん、1である。1の確率を、2の確率は上回ることができないのである。だが人の目は直感的に2に向かう。条件に類似したものが正解であるという思いこみが人間の頭の中にあるからだそうだ。無自覚で事に当たると、このようなことに巡り会う。たぶん、ソクラテスの質問を受けたアテネの青年たちは、これにだいぶ引っかかっているのではないかと思う。論理的に考えればおかしいのに、そうだと思いなしてしまう。それは、古典の中だけの話ではない。
 詐欺はそういう論理の盲点をつくことが多い。マルチ(まがい)商法もまた、乗っかるタイプの人間を、その気にさせて疑わせないようにしてしまう。
 論理学の教科書といえば、味気ない例文や論理記号の羅列、そういうイメージが、伝統的にある。そもそも論理学などというもの自体、人気薄の分野である。よほどの物好きでなければ寄りつかないような論理学であるのが実情だが、この本は違う。楽しい。ほんの少しだけ、読んで「考えよう」という気持ちがあるのであれば、論理学がたまらなく面白いものに見えてくる。いや、実際面白いのだ。
 私たちの日常の中で、こうした論理の冷徹な法則に基づいて少しでも考えるならば、おかしなことが沢山ある。なんで言いくるめられたんだろう、と納得できない人は、この本を読みこなす環境にある。商法にしろ宗教にしろ、いわゆる「ひっかかった」というのは、当事者にはなかなか分かりにくいものなのだが、その場合、論理という一つの筋が、騙しを見破るパワーを秘めている。
 1項目2頁で、淡々と進んでいく、小咄のような説明の数々は、その都度実に魅力的に輝いている。「あなたはラッキーです」と当たりくじを示されたところで、騙されてはならない。ある人は、店頭のクジでPHSが当たった。あなたはラッキーだと褒められて契約した。しかし、無料で電話機を売っても儲かるのが携帯並びにPHS事業である。全員に当たるようなクジを作っておいて、当たった人はとてもラッキーだと褒めるといい。しかし、その論理に気づいていなければ、自分が特別だという思いこみにはまってしまいやすい。
 世の中の詭弁の数々も、多数例示される。生活に役立つことも保証できる。ともかく、論理というものは、味気ないとか退屈だとかバカみたいとか、散々に言われるかもしれないけれども、それが実に面白いものであることを伝道するための、好著であるといえよう。




Takapan
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