『ローマ人の知恵』
渡部昇一
集英社
\1,300
2003.11
ローマ帝国の盛衰は、しばしば日本の考察のために持ち出される。ローマ帝国と日本とは類似点があるらしいのである。
著者は、そんなところから導入し、ローマの文学や政治記述などの中から有名な、あるいは著者の目に止まった短文を紹介する。そして、それについての学的な説明というよりも、自分だけの気儘なエッセイが綴られていく。
産経新聞のコラムニストが時折持ち出す名前だけに、著者の思想はどんなだろうという興味もあった。昔渡部氏の別の著書を読んだときには、これほどまでとは気づかなかった。それは、日本の国益や軍隊、強硬な外交姿勢といった、産経新聞の主張とそっくり同じものがふんだんに盛り込まれていた。
ローマ人の言葉が掲げられた上で、数頁の自分の感想や、自分が主張したいことが述べられていく。だんだん分かっていくことだが、しだいにローマ人の言葉の解釈よりも、それを軍事大国日本の正当化のためにどれほど利用しようか、という意図が見え見えである。どこからでも、軍事第一のその思想にリンクしていくように見える。
こういう本は、むかつく人は壁に投げつけたりするであろうが、平和主義者は、悲しい顔をして本を見つめてため息をつくのかもしれない。
雑誌『PLAYBOY』誌に連載されたものの編集ではあるが、最初から単行本にするつもりだったかのように、すんなりと一つの本に変貌している。
ただ、どんなことからでも、極右の思想へつながっていくことに注意を願いたい。無防備にこういう本を開くと、だんだん、洗脳されていきそうなのである。
だから、この本を、ローマ帝国への関心からとか、ローマについての知識を教えてもらおうというつもりで開くと、失敗する。著者は、べつだんローマでなければそれでもよい。どこからでも話に入り、結論としては、一定の主張につながっていけばいいと考えているようである。これは右派の思想と主張を正当化しようとするための本なのである。