本

『ローマ字学』

ホンとの本

『ローマ字学』
倉島節尚監修・稲葉茂勝著
今人舎
\1800+
2019.8.

 タイトルには冠のようにして、「世界のアルファベットの秘密がわかる!」と付いている。そもそもローマ字学なるものは何だ、ということになるだろうが、ローマ字について学ぶから、そう名づけた、ということが最初に書いてある。
 小学生が読めるように配慮している。できればローマ字を習い、知っていることが望ましい。いや、その「ローマ字」なるものは、日本語をアルファベットで綴るあのローマ字のことを言うのであろうが、本書の目指すものは、もうひとつ別の意味である。つまり、ラテン文字と称される、ABC……のことである。その点についても本書の中でちゃんと説明されているから、読んでいけば迷うことはない。子どもが読めるように、ということは、きちっとした理屈が通されている、ということだ。大人だったら、ある程度なあなあで読んでくれるが、子どもはそうはいかないからだ。
 いつも言うことだが、こども向けのこうした解説書は、おとなが、機会があったらぜひ目を通してもらいたいと思う。まず一読して、すぐに分かる。経験や知識がある分、大人はこれらのすべてが新しい情報ではないため、知らないことが少ないのだ。殆どのところを流して読めるし、知らなかったことは驚き、記憶に残りやすいのである。もう一つは、どのような説明の仕方が分かりやすいか、学ぶことができることである。子どもに分かるように書くということは、実に難しい。書くほうも、本当に分かっていないと、平易に書けるものではない。難しいことを易しく書くことができるというのは、すばらしいことなのだ。
 さて、本書にはローマ字、あるいはラテン文字、アルファベットという形で主役にそれを立てるわけだが、当然、ギリシア文字、あるいはフェニキア文字などとも比較や説明がなされ、ギリシア文字の書き方などの指導もある。しかし、私がほかで学んだのとは違う書き順のものが多く、最近は書き順がこのように変わったのかしら、と不思議に思った。もちろん、古代文字の書き順が判明していることは殆どないだろうから、後世の者が自由に決めたものであるとすれば、諸説あって構わないのであるが。
 それにしても、なかなかユニークな資料が載せられている。ナーガリー文字というインドの文字も詳しく紹介されているし、ABC……のアジア各国での読み方の一覧もあって、こうしたことは全く知ることがなかったと驚いた。五十音をこうした文字で表すコーナーが最後にあるので、たとえば自分の名前をタイ文字で表すなどということもできるようになっている。ハングルではそれをよくやるものだが、他国の文字でもこれができると、きっと楽しく、親しめるだろうと思う。そして最後の最後には、エジプトのヒエログリフである。これは、別にヒエログリフを一冊紹介する本『ヒエログリフを書こう!』もあって面白かったが、その要点が本書では2頁だけでまとめられているわけで、本書が如何に広範囲に資料を提供しているかが窺えることだろう。
 末尾の「後記」は、こう締め括られている。「この本が、子どもにも、また、大人にも役立つことを願ってやまない。」とっても役立つと思う。図書館仕様のハードカバーで写真も多く、価格としても高い印象を与えるかもしれないが、だったらどうぞ図書館で、大いに活用してもらいたい。ローマ字の様々な知識にも触れられて、よい学びができるだろうと思う。




Takapan
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