本

『どうする「理数力」崩壊』

ホンとの本

『どうする「理数力」崩壊』
筒井勝美・西村和雄・松田良一
PHP研究所
\1,680
2004.4

 ゆとり教育という名の響きはよいにしても、実際にやっていることは学力を崩壊させるようなことばかりだ――現場の教師を含め、教育から作られる日本の将来を憂う声として、しばしば起こされてきた。それは決して空理空論ではないがゆえに、ようやく教科書に応用発展を盛り込むことを役人は認めつつある現状だ。
 大学教授という立場から、大学生の学力低下をひしひしと感じる著者もいれば、学習塾経営の立場から、信頼の置ける中学生のデータを手に、教科書と学力とがこの数十年で格段に落ちていることを証明する著者も、この本のメンバーに含まれる。
 塾の経営者は、このようなことを言う。学校が大したことを教えないでいたほうが塾は繁栄するのかもしれないが、そんな考えからではなく、国の将来が悲惨なものになることがたまらないから、教科書を過去のような豊富な内容に戻すべきだ、と。
 国を滅ぼすのは、自衛隊に反対する者たちであるとか、ジェンダーフリーを主張する者たちだとかいう新聞社がある。だが、それらが滅ぼすより先に、教育制度が滅ぼすであろう。私も読んでいて、そんな気になった。
 この本の205ページには、小中学生の学力問題について、重要な要因として次のようなものが挙げられている。――理数を中心とする授業時間数の大幅減。学習内容の大幅減。教科書の簡素化や平易化とマンガ化。練習問題の削減。宿題の大幅減。自宅学習時間の大幅減。競争排除。受験勉強の罪悪視。全国テストの中止。
 学力低下もそうだが、私は、言語活動(読解力と表現力)と思考力(推理力など)とにおいて、年々子どもたちの力が落ちていくのを感じていた。去年驚いた出来事に、今年は驚いてなどいられない現状なのだ。恐ろしく会話のできない子が現れ、恐ろしく説明の理解できない子が現れ続ける。もちろんこちらの側の説明の下手さというのもあると思われるだろう。それは否定しないが、同じ説明で以前なら理解されていた事柄が、下手さにおいても同じその説明をしても年々理解不能になっていくことをひしひしと感じることは、どうあっても認めないわけにはゆかない。
 最後のほうで、実際的に子どもに対してどのような教育環境を与えていけばよいのかの提言もある。そこには、親の生き方が問われているように感じられてならない項目も少なくない。が、私がやってきたことも多く含まれていた。何も私は、子どもに英才教育をした覚えもないし、中学受験もさせなかったし多分させないだろうと思う。子どもは塾にも行っていない。それでも、商業宣伝や流行に左右されず、本やパズルに興味をもつ子に育っていくことは自然になされていったのではないだろうか。つまり、特別に熟慮するということなしにでも、ちょっと考えてテレビ浸けにするよりは本に浸るほうがいいかなというほうを重んじる生活を営んできただけのことが、この本ではえらく推奨されているという具合なのである。百科事典だけは楽しいものを一つ買い、そこにポンと置いておいたが、子どもはそれだけで実に多くのことを調べ吸収してくれるものである。
 教育というと、人それぞれの教育観というものがあるから、あれこれと教育論を読み耽っていろいろに流されたり惑わされたりすることがある。親がその中で迷わされず自分はこうだというあり方、生き方をもっていることが、子どもにとっては一番の教育であるのかもしれない。
 そんな中で、この本はたいへん説得力のある現状調査と提言になっているように感じられる。ただし、サブタイトルが気になる。《子どもたちを「バカ」にし国を滅ぼす教育を許すな》というセンセーショナルなものだが、前半の言葉は言いすぎだと思う。「バカ」と評するなら、私たち大人自身にしか言ってはいけない。教育の基本である。




Takapan
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