本

『理系学部に合格ったら読む本』

ホンとの本

『理系学部に合格ったら読む本』
井手弘人・内藤克浩・根本泰雄
化学同人
\1260
2007.5

 タイトルからして実にその用途が分かりやすい。振り仮名があるので「合格」は「うか」と読むように示してあるが、たぶんそういうのはなくても、この本を必要とする世代は自然と読めるはずだ。
 大学に合格した、そこから一ヶ月くらい時間がある、その間、長い受験勉強から解放された喜びも次第に現実への不安に変わるものだ。とくに理系学生は、とてものびのび遊んでいられないぞという声を少なからず聞くものだ。でもどのようにして学んでいくのか、そもそも大学とはどういうところなのか、高校とはまるで違うと聞いてはいるが、果たして自分は適応していけるのだろうか、そんな疑問だらけなのである。
 サブタイトルに「大学生活応援ガイド」とあるが、それが何だか救いの手を差し伸べているように見えてきてしまいそうだ。表紙の可愛い動物のイラストが、ちょっと友だちになってくれるような優しさを感じさせたりして。なかなかデザインもよいし、目的もはっきりしているし、またその内容も、これがなかなかよいのである。
 こういうのがかつてあったら、ずいぶん大学生活に飛び込むときの心構えが違ってきただろう、と私は感じる。私は大学は文系であった。しかも、もうこれは修道院にでも入るような覚悟で道を究めようとの意気込みで堅物でいくぞと心に決めていたから、私はもうマイ・ウェイで進むしかなかった。しかし、もし少しでも世間に合わせてやっていこうなどと考えていたとしたら、こういうガイドがないとやっていけなかったのではないか、と思う。いや、我が道を行くと決めても、流されて追い詰められていったのだ。
 おっと、自分のほろ苦い思い出に浸っている場合ではない。
 これは理系に絞っている。これがまた成功だろうと思う。中途半端に全学部を気にしていると、該当することとしないこととが混成し、記述に説得力がなくなっていったに違いない。「理系」という絞り方がベストである。
 ここには、「生活」とあるものの、衣食住関係の生活のフォローをするつもりは全くないようだ。応援されているのか、専ら学習面。研究生活をも十分匂わせながら、大学での授業をどう乗り越えていくか、その意味はどうか、そうしたところをとことん詳しく説明してくれている。教授より手前の地位にある、良き先輩たちが、その経験と実情とを鑑みて、新入生に対して親切なアドバイスを重ねている、という感じである。
 このほかに、衣食住関係の生きる知恵やまさに生きる力と言えるようなものを、母親などから教わっておけばいい。また、サークル活動もご自由に。だがこの本は、あくまでも大学での研究を助ける本である。サークルにしても、そのためにはどうしていかなければならないかという点で触れてあるだけだ。大学で「優」をもらおう。そういう形で進んでいく。休んではいけない。一度休んだだけで「優」が消えることもありうるのだ。そんなふうに、真面目に学究生活をしていくように勧める。
 それがカタイ、と思われるかもしれない。しかし、それが大学生だ。せめて、まだ入学していないうちに、大学とはどういうところであるのか、真面目な話を聞いておくとよい。このアドバイスに従っていて、損はないはずだ。大学とは、遊ぶところではないのだから。
 それにしても、実験においては鉛筆で筆記し、消しゴムも使わないで二重線で消すなど、現場でしか分からない知恵が記されていて、理系の方々には常識であるにしても、私には非常に新鮮で面白かった。
 大学生活を始める長男に、ぜひ見せたいところだ。




Takapan
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