本

『大学生のための リサーチリテラシー入門』

ホンとの本

『大学生のための リサーチリテラシー入門』
山田剛史・林創
ミネルヴァ書房
\2400+
2011.8.

 高校までとは違い、大学になると「研究」なり「論文」なり、創造的な仕事が要求される。当然である。大学は研究機関なのだ。しかし、高校までの学習の中で、そうしたことについての方法はまるで習わない。そもそも発想からして、受け身で正答を探すようなことしか求められていなかったことから、いきなり、未知の世界、正答なき濁流の中に飛び込まなけれはならないのだ。そこへきて、論文やレポートってどう書くの、というのまで気が回らないのが当然である。
 といった事情を鑑みて、世間には、レポートの書き方といった本がたくさん出回っている。かつては論文へとつながるものが多かったが、近年、レベルが下がっている。そもそも原稿用紙の使い方のような次元のものが売れているというのは、よほどのことだとさえ思う。本にすら触れないような若者が、本を書くような営みに入らされるのだから、それもそうだろうと思う。
 様々なタイプのものが売られている。さて、本書はそんな中でどういう位置にあるのだろうか。それは、開いた「はじめに」で明らかにされている。確かに世には、大学一年生のための入門タイプが多い。それなりに売れる。また、卒論を書くときにまた大きなハードルがある故に、現実の論文へのアプローチについてのニーズもあるわけで、そうしたものもよく見られる。だが、大学二年から三年辺りに必要な導き手が、殆どないらしいのだ。大学で教えていて、その辺りの要求が学生の側からくることに対して、それでは自分たちがということになり、生まれたのがこの本であるということらしい。
 確かに、卒論へ導く糸が必要だというのは分かる。とりあえず形になればいいという段階から、次が学術の香りのする論文であれというのは、飛躍がしすぎる。たんに形式だけではなく、研究のモチーフから進め方、調査やアンケートのとり方など、心得ておかねばならない手法は幾らでもある。本書は、そこを埋める役割を買って出た、ということなのだ。
 そのため、ああしてこうすればよい、といった定式を掲げるようなことはしない。ケーススタディのように、実際に学生たちの間で起こる情況をストーリー仕立てにして、具体的に生き生きとその場に応じた必要が理解でき、また実行できるように、説明が進められていく。
 但し、たとえば「複眼的思考法」が求められるぞ、といったふうに、養われなければならない見方や考え方、そうしたものも丁寧にアドバイスされていく。何もかもが具体例であるわけではない。
 まずは人とまともなコミュニケーションがとれること。課題はどのように自分で見つけていくものなのか。情報収集は、2011年の情況を反映させているとはいえ、インターネットも十分進んでいる。情報の扱い方や注意、もちろんリテラシーについての理解を促すこととなる。
 その情報はどのようまとめていけばよいのか。そのとき、すべてを真に受けるというのも問題だが、それ以上に、論理的思考が必要になること、とくに、それでよいのかという批判的な思考が大切だということを、きちんと教育する。クリティカルシンキングという語で通すが、これはかなりのエッセンスである。
 つまり、言葉の使い方の教授というものではないのである。卒論に向けて進むためのガイドなのだ。最後はプレゼンテーションのためのアドバイスとなっているが、ゼミなどの現場で、一つひとつ役立つ場面が多数紹介されている。
 どうやらけっこう評判がよいようだ。その後もこれはいいという声が続いている。発行から十年後に私は見つけ、図書館から借りていたら、大学に入ることとなった息子がそれを見て、実にいいと気に入り、買うこととなったくらいだ。でもさすがに十年経つと、巻末の「読書ガイド」は資料が古くなる。また、さらに良い本が出てくる。そう考えると、お手数をおかけする願望だが、この巻末の参考書の10頁ほどだけは、増刷するときに増補ということはできないのだろうか。それはすでに版が変わることとなるのだろうか。
 良質のガイドは、十年くらいでもよいので、時代や情況に合わせて、修正していってほしいと願うものである。




Takapan
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