本

『歴史のなかの天皇』

ホンとの本

『歴史のなかの天皇』
吉田孝
岩波新書987
\819
2006.1

 後継者が不安視されている世情に、一つの有効な視点を提供しようという試みであろう。歴史研究家は、こういうときにもまた大切な役割を果たすことができる。
 いやはや、これは大変な日本史である。日本史概観という点からも、勉強になる。歴史の時間に耳にしたことが、殆どすべて登場すると言っても言い過ぎではないほどである。ということは、いかに日本の歴史という叙述が、天皇を中心に語られてきたか、という証拠にもなるだろう。
 歴史として私たちが学ぶのは、政治や権力の世界の出来事ばかりなのである。
 それはともかく、日本という国を見つめるにあたり、多くの示唆を受けることは間違いない。恥ずかしい話だが、日本の「日」が「大日如来」のことであるという意識は、私にはなかった。「本」は「本国」なのだそうだ。
 実に根本的なことを、把握できないままに今日まで過ごしてきたことが、消え入りたいほど恥ずかしくなる。「姓」と「苗字」との違いも、漠然と感じていないわけではなかったが、はっきり天皇によるかどうかという違いだと、何度も言及しているために、頭に入った。「王」という表現がいかに小さな権力者を指しているか、そうして日本は二重権力を一つの特徴として今日に至っていることなども、深く学んだ。
 著者は、日本古代史の専門であるがゆえに、近現代史を説くのは無謀なことだと遠慮しつつも、逆に明治以後の叙述のほうに生き生きとしたものを感じたと言えば、失礼なことになるだろうか。皇室典範や神道との関係といったものが、如何に歴史の浅いものであるのか、改めて指摘を受けて考えてしまった。
 日本のあり方は、近隣の大陸国との関係の中で、定まってきた面もある。こうした諸国を一方的に低く見る向きもあるし、その一派は、皇室典範を今日も日本の伝統だと強く主張していたが、歴史的にそんなことはないのだということが、この本ひとつではっきりする。
 もちろん、女帝の歴史と背景や問題点も述べられている。こうした危急の点のほかにも、ためになることがたくさんあった本である。




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