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『なぜ若者は「半径1m以内」で生活したがるのか?』

ホンとの本

『なぜ若者は「半径1m以内」で生活したがるのか?』
岸本祐紀子
講談社+α新書
\840
2007.9

 疑問文のタイトルはあまりよろしくないというのが常識だったが、本については何かをそそる役割を果たしているらしい。しかも、そこには直ちに了解可能ではない用語や内容が伴っているとなると、なんのことだろう、と首を突っ込みたくなるものだ。
 それはともかく、ここにあるのは、若者の分析。よくあるもので、当の若者はうざったいと感じているかもしれない。
 結局、その冒険心のない安定志向と、周りに逆らわずぶつかりたくない思いが、さまざまな角度から明らかにされていくようなものであった。
 はたしてそれは、今の若者に特有なものだろうか。著者は私よりも上の世代であるが、ここで想定されている今の20代あたりまでのための説明を見る限り、私自身も当てはまるところが少なくないようにさえ思えてしまうのを感じたのだ。もちろん、それでも自分は違うと思われるところがたくさんあり、それゆえに今の若者のムードが解説されていると言えるのだが、その解説はさまざまな実情を理由としており、それなりに信用のおけるものとなっている。
 こうして若者の基盤を考察するために著されたこの本の中では、若者のライフスタイルの中のひとつを示すものとして、一種の「自分探し」もそこに関与することが示唆されていると考えられる。しかし問題は、自分探しとは何か、その本質にあるものは、といったところまでは踏み込んで考えていかなければならないところである。
 私などは、実は年配の方々、お歳を召した方々にも、当てはまるところはあるに違いないと感じるのだ゛か、どういうわけか、目くじらを立てたくなる言行の主役は、子どもである。若者である。それで、若者たちも、自分の思想を文字にして一般に提示するというのは、実に抵抗のあることとなっている。
 何もこれで若者たちが分かったとか、若者たちの今度はこうしてアドバイスをしようとか、すぐに利用できるわけではないと考える。しかし、今後の世界を占う上でも、ここから最初のアプローチというものを、考えていかないといけない。
 こぢんまりとした生活を本来の自分と見出していくような若者風土の中で、さて、大人たちはどういう手本を見せていると言えるだろう。案外、若者たちの選択そのものは、きわめてそれ自身輝いていたもの、と言えることになるかもしれない。
 やや仮説に走っているような面はあるものの、悪意を以て評しているのではないだけに、読んでなるほどと思えるようなところが多い。ひとつの思考枠としてぜひこの視座を具えておきたいと思った。




Takapan
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