本

『パズル学入門』

ホンとの本

『パズル学入門』
東田大志
岩波ジュニア新書681
\819
2011.4.

 驚いた。若者が見事に分野の開拓を行っている。しかも、ここに著された本が、実に平易で、しかも主旨がはっきりしていて、説明がうまい。そもそもパズルを解く、パズルを創るということが、物事を順序よく手際よく整えるという営みであるに違いないのだから、このように説明を重ねていくというのは、お手の物なのかもしれない。それにしても、文章としても、うまい。
 もとより学術的な著作ではない。同じパズルの歴史を紹介するとはいっても、論証しようというのではなく、紹介しようということだ。しかも、これはジュニア新書。中学生や高校生をターゲットに、理解してもらおうとするには、それ相応の語彙と、説明手順というものが必要になる。それは、およそ万人に分かってもらうような記述ということになる。気まぐれな若者のために、興味をもってもらうような書き方も工夫しなければならない。つまりここでは、物事を考えるためにパズルがただの遊びに終わらず、実はたいへん役立つのではないかということを、くどくならない程度に繰り返し説得するのである。
 書くのがうまいというのは、そういうところも含んでのことである。
 また、著者自身、日本各地を巡り、そこでチラシにパズルを印刷して手配りするという実践を重ねている。このような動きは、中高生にとって親身に感じる大きな理由となるだろう。偉そうにしている頭のいいオジサンではないのである。
 芸術の条件を検討しながら、パズルを芸術と規定していくあたりも面白い。とにかくパズルへの情熱ときたら、半端ではないのだ。そこで、「パズル学」というものを考えたのだ、となると、これはもう一つのマンガのストーリーである。そういう魅力を十分備えていることは間違いない。
 後半では、著者自身が考案した新しいパズルをいくつか紹介する。そのルールの丁寧な示し方は、実に参考になる。説明とはこのようにするものだという見本のようなものが並んでいる。
 思うに、教師たるもの、こうした説明を大いに学んだらいい。もちろん、自分の考えたことを自分のペースで考えた通りに話せたことで満足するような教師はいないだろう。が、えてして、自分で自分の説明を、良いか悪いか決めたり考えたりしてしまうものだ。だが、そういうことは、自分では決して分からないことなのだ。他人の説明の良さを学びつつ、自分としては現場のその子どもと向き合う覚悟のようなものが必要になる。
 いや、著者のために、大切なことをやはりきちんと言おう。パズルは楽しい。私もそれは分かっている。あいにく、多種多様なパズルに熱心に取り組む時間はあまりないのだが、算数や数学を遊びのように教えている仕事柄、パズルに挑まねばならない場合も少なくない。その都度、比較的短時間に解決してはいるものの、高度なものに対しては遠慮するしかない身である。ただ、基本的なレベルであれば、要領を呑み込むのは決して遅いほうではないと思う。このように、パズルというものについて少なからぬ興味だけは抱いている私が太鼓判を押したいと思う。パズルは楽しい、と。




Takapan
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