本

『プロ作家要請塾』

ホンとの本

『プロ作家要請塾』
若桜木虔
KKベストセラーズ・ベスト新書39
\714
2002.4

 聖書小説というのは、やはり時代小説の部類に入るのだろうか。拙い構成であり、文章技術でしかないのだが、私も、このサイトにそうした小説をアップしている。それなりに旧約聖書を読み込んだことの、一つの勉強の結果であると言えるだろう。
 しかしながら、小説は、飯を食う手段として目指されるものの一つでもある。新人賞に選ばれたいという願いをもつのは尤もである。持ち込みという手もあるが、現実に持ち込みは今の時代には殆どない。箸にも棒にもかからない作品をいちいち持ち込まれて応対する手間を省くためにも、公募の新人賞を掲げているのが出版社の本音だと言ってもよい。
 新人賞には、多くの作品が寄せられる。そこから選ばれるには、自分には才能がある、などという自信過剰だけではどうにもならない。では、才能が必要なのか。あるいは、その賞の傾向と対策があれば何とかなるのか。事はもちろんそんなに簡単ではない。
 しかし、である。選出する方も、これら多大な応募作品を、曲がりなりにも読まなければならない。いい加減に処した中に宝が隠されているかもしれず、それを他の出版社に奪われたくはないとも思う。でもそれにしても、わずかな宝を見いだすために、ただの石がなんと多いことか。これはもう、「こういうものは落とす」と、下読みの段階で落とす基準をはっきりさせておくほうが、無難である。それは、塾で作文を選出するときの私の経験からしても、よく分かる。
 実際の応募作品のいくつかを用い、どこがどのようにいけなかったのか、をこの本はよく説明してくれる。単に一般論だけで片づけはしない。しかも、単に実例の改善だけで事が済んだようにもしない。やはり、一定の方法または法則たるものがあるのだ。
 この本は、薄い新書でありながら、そういう目的を叶えた、なかなかの本である。その具体的な要領というものは、どうぞ手にとってご覧ください。元々『公募ガイド』に連載されたものをまとめたので、一定の範囲で分断された感はあるものの、「読んでもらえる小説」のノウハウが、よく掲げられているように思う。
 たしかにこれは、小説についてである。しかし、「読んでもらえる」ということは、たとえば講演やスピーチの原稿についても、「聞いてもらえる」ということで共通するものがある。この本はあくまでも小説のことだが、そこに含まれている知恵は、講演など様々な場所で役立てられる可能性をもっているように思う。
 ユニークなのは、巻末の「解説」。普通は著者を持ち上げるだけで終わるのであるが、真っ向からそれを批判する姿勢で立ち上げている。そのほうが、むしろ公平で間違いなく、そういう解説者が、この本の優れている点を上げたときに、よけいに信頼性が増すようにさえ思えるのだから、案外このような解説のやり方にこそ、「やられた」と頭を掻くのが、読者である私たちが返す、最高の礼儀であるかもしれない。




Takapan
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