本

『大研究! ひろがる印刷の世界』

ホンとの本

『大研究! ひろがる印刷の世界』
やまざきまこと漫画・鈴木俊行構成
講談社
2015.3.

 図書館に提供されるための本であり、一般には出まわらないであろうもの。子どものための「まんが社会科見学シリーズ」である。表紙が厚く上部で、中の紙質もかなりよい。装丁だけからしても、販売すればなかなかの価値がありそうなつくりだ。
 だが、それにも増して、中身がいい。ほんとうに、大人が見るに相応しいと言ってよいほどのものなのだ。
 中身はすべて漫画のストーリーである。子どもたちが、印刷に関心をもち、工場見学をするというだけのストーリーなのだが、なかなかうまく作られている。そして、楽しんで見ているだけで、印刷についての基礎知識が身についてしまうのだから驚きだ。どうりで、学習漫画の人気が衰えないはずだ。漫画なら気楽に読めるし、読んだだけで頭に入ってくる。画面で書いてあるので、頭を使って場面を想像し、情景を構築する必要がない。全部絵で表現してくれるし、それもずいぶんと分かりやすく噛み砕いて伝えてくれる。なにかしら誤解しそうなところは、キャラクターの誰かがボケて笑わせてくれるから、強く印象に残る。ほんとうによくできている。
 もちろん、これだけの量の本にしては、情報量は著しく少ない。それはテレビの教養っぽいバラエティ番組と同じである。テレビでは、ほんのわずかな量の知識を、あれだけ長い時間をかけて画面をつくり笑いをつくり放送しているのを見るのだから、理解するのはたやすいと言って差し支えない。学習漫画も、いわばそれと似た構造をもつ。
 しかし、内容としては、印刷というのであるから、確かに具体的な印刷物を視覚的に見て、あるいは動きなども確認しながら見ていくのでなければ、説明だけでは分かりづらいというのも本当であろう。
 中身が全編カラーとなっているのも、理解を助ける。印刷に関するあらゆる知識がちりばめられており、子どもたちにもかなりの高率で内容が伝わるのではないかと思われる。
 だからなおさら、おとななら一回読めば分かるだろう。おとながこういうのを読んでばかりいる、というのも困ったものだが、確かに、こうして読めば、子どもに何かを話すときにはもってこいだ。いや、どうせおとなと言ってもこんなことを全部知っているのではないのだから、いくらかのことでも話して聞かせれば、ちょっした蘊蓄にもなる。
 ときおり、説明の頁がある。子どもたちには、ストーリーから外れた、こういうところもぜひ読んでほしい。やっぱり、ほんとうはそういうところをきちんと読んでほしいと思って、作者たちはこの本をこしらえているのだ。
 ただ、未来の印刷技術についての最後のほうの事柄については、私の知らないようなことが沢山載っていて、気になった。うかうかしてはいられない。こういうことを知らずに、子どもに偉そうに話した暁には、逆に子どもたちから、こんなことも知らないのか、と言われそうである。未来を生きる子どもたちには、未来のことを少しでも多く伝えようとして、こうした本は作られている。大人が、こうした子ども向けの解説本を見たらよい、という意味のひとつは、ここにある。
 ほんとに楽しかった。しかし、どうやってこの本が利益を得るのか、やっぱり不思議だ。




Takapan
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