本

『プレゼン・意見発表が別人のように上手くなる6つの押さえどころ』

ホンとの本

『プレゼン・意見発表が別人のように上手くなる6つの押さえどころ』
田中義樹
日本実業出版社
\1365
2008.9

 ビジネスパーソン向けの、いわゆる啓発部類の本というのは、どう扱ってよいのか分からない。
 たしかに、あると便利である。ちょっとこういうときに、と思ってそのためのヒントが書いてあると助かる。また、気持ちが挫けているときに、こうやって発奮しよう、みたいなものに触れると、また頑張ろうという気になることがある。殆どタウリンなんとかmgの栄養ドリンクみたいなものだが、たしかにその通りで、その効果が長く続くわけではない。いつの間にか忘れてまたなんとなくビジネス生活を送っているということになるものである。
 今回のテーマは、プレゼンテーション。ただでさえ、教育の世界で自己表現などということは抑えに抑えられて育ってきた若者である。いや、おじさんたちもそうである。いざアピールを積極的にしよう、などと言われても厄介である。特に優等生ほどそうである。
 長いタイトルの本であるが、全体的に、具体例に乏しい。状況が把握しづらく、その抽象的なヒントというのが、どのように活かされていくのか、少し分かりづらい。だがまたそのことのゆえに、あらゆる読者の現場に適用できる可能性をももつ。ただ困っている読者側からすれば、どのように適用できるのか、分からないのは事実である。
 しかし、よくあるように、見開きの中で問題をひとつひとつ解決していこうという形式はとっていないので、詳しく論じていく内容については、十分頁を使い配慮している様子が窺える。
 それに、挙げられている分かりやすいヒントというのが、案外よいのである。一文を短くしろとか、大事なポイントは三つ以内にしろとか、数字を具体的に入れたり直喩を用いてイメージを高めたりせよとか、まあ当たり前であるにせよ、ビジネスの現場にいる人には、「ひとつやってみるか」と思わせるようなヒントがたくさん盛り込まれている。
 ちょっといいなと思ったのは、いわゆる「あがる」ことについて。あがらない方法を会得させようというのではなく、「あがる」のは、前向きに挑んでいる証拠であるのだから、その緊張感を逆に自信につなげるように、と視点を換えているところである。これは心理的になかなかいい発想である。弱さを逆に強さに換えていくというのは、いろいろな場面で応用してみたい構造である。
 偏差値的発想からすると、偏差値50以下の生徒に参考書を薦めるような気分ではあるが、あいはその逆に偏差値の60くらいの生徒にしか理解できない本であるのかもしれない。というのは、文章で滔々と理論や実際が述べられていて、この本自体がほんとうに分かりやすいプレゼンができているのか、と尋ねられたら、もうひとつ怪しいからである。皮肉なことに、この本自体、プレゼン対象としては、そう分かりやすい見立てになっていないのである。
 私だったら、この内容を思い切って、漫画家に描いてもらう。4コマでもいいし、1頁完結で8コマなどでもよい。その中に、知恵のエッセンスを、面白く描いてもらうのである。きっと具体的に、読者が感じてくれることだろう。
 その都度、よい知恵は含ませていると思う。だからこそ、それを的確に伝えるためのプレゼンそのものに、もっと気を払って欲しかった、と思うところである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります