本

『っぽくなるデザイン』

ホンとの本

『っぽくなるデザイン』
ingectar-e
MdNコーポレーション
\2000+
2020.3.

 促音の「っ」から始まるタイトルの本は珍しい。これだけでインパクトがある。もちろんこの本はデザインのアドバイスをする本なのであるが、たとえばファッション誌「っぽくしたい」、アパレルブランド「っぽくしたい」、アウトドア「っぽくしたい」、アーティスト「っぽくしたい」、そんな願いを実現するのが本書のコンセプトであるのだという。しかし、その一つひとつを取り上げるというよりは、どんな目的でも合うように、テクニック的に並べているので、先入観に囚われず感覚的に導かれていくような思いがした。そこで、本書の全体的なモットーは、「かっこよさ」だと掲げていることで、必要十分な紹介とさせて戴きたいくらいである。
 ビジュアルの要素なしにこの内容をお伝えするのは無理があるのだが、少しだけ言葉だけで例示すると、たとえば「2色デザインで惹きつける」、これは想像できるかもしれない。なかなかクールではないだろうか。しかし言われないと気づかないのは、「白をポイントに抜け感を出す」とか「ケイ線囲いでアレンジ」、「イラスト一点勝負」、「紙面ギリギリを狙う」とかいうのはどうだろう。私が余りに素人であるから自分のツールとしてこうしたアイディアを持てていなかったというだけのことなのだろうか。「かっこよくはみ出す」などは、完全に盲点だった。確かに画として対象物を画面の端で切るというのは、分かる。普通に考える。だが、文字をがんがんはみ出すということは、私には発想がなかった。早速今度使わせてもらおうと考えた次第である。「文字オンリー」も大胆でいいし、「チョークアート風がイケてる」のは、知ってはいるがなかなか作れない。「カラーを乗算して素材感に」だと殆ど文字面だけでは分からないかもしれないが、要するに色が透明的に重ねられていく効果を狙うもののようだ。これも味わいがある。「多角形で攻める」は意識しておきたい項目だ。「波線で脱力カジュアル」という辺りの語を結びつける勇気は私にはなかった。
 それぞれがいくつかの見本を並べ、ごく短いコメント解説を載せているというのが本書のパターンであるが、その見本を見るだけでも実に楽しい。そういうことか、これはいいな、と口から言葉が自然に出てくる。全頁カラーでまとめた160頁は、多少高価に感じさせるかもしれないこの本の値打ちをぐっと高める。無駄なお説教がないのが、また好感を持たせる。
 サブタイトルがイカしてる。「誰でもできるかっこいいレイアウト集」なのである。そして表紙゛かまたお洒落で、何をこの本が提供してくれるのかをピクトグラムのように伝えてくれる。デザインというのは、できたものを見ると誰でもできそうな気がするものだが、それを生みだすクリエイティブな才覚は、どうしてどうして、決して普通には出て来ないものである。それを、「誰でもできる」とぶつけてくるのだから、ある意味でそれは嘘である。詐欺である。でも、この詐欺には、引っかかったままでいたいとすら思う。
 ファッション雑誌を眺めるみたいに、ちょいとソファに座ったらぱらぱらとめくる、そんなふうにこの本のエッセンスをいつも自分の心の周りに散らしていたら、もしかすると「誰でも」も本当かかな、と思えるような日が来るかもしれないからだ。




Takapan
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