本

『クリスマスの天使』

ホンとの本

『クリスマスの天使』
C.W.バックストン+G.カーデン
鳥飼まお訳
講談社
\1365
1997.11

 クリスマスとは何か、前提となっている文化では、すてきなクリスマス・ストーリーが生まれる。何もただのムードで恋愛ものを描こうなどというのではなく、与える愛や家族のつながりを描こうとするかのようである。
 この本は、紹介によると少しばかり風変わりな作家たちによって創られたお話であり、「パパの天使」という原題が偶数頁にずっと掲げられている。1頁あたりの文字数が少なく、物語としては非常に短いコンパクトなものを、一冊の本にまで高めている。さらに、場面ごとにストーリーが頁を飛ばして明確に区別され、その場面というのも、回送などを含めて、時間の軸がやや複雑である。ただ、大きく誤解をするであろうとは言い難い。
 ママを亡くして、意気消沈したパパ。子どもたちは五人いる。この本を綴っている女の子はいわば中学生。少しばかり謎をもつのでここではその正体を明かさない。
 パパはもう生きる希望をなくしている。あるのはただ絶望だけ。子どもたちは、そんなパパに振り回されながらも、ちゃんとパパを見つめている。パパを愛しているのだ。
 子どものときには子どもの立場で見ていたくせに、大人になると今度は親の立場からしか事態を見ることができなくなるのがまた不思議なことだ。このパパと置かれた状況は違うにしても、子どもたちの心が見えなくなってしまうということは、確かにあるものだと実感できる。自暴自棄でクリスマスさえもうやめた、とするパパ。昔のようにギターを弾いて曲を創り歌うようなこともなくなった。子どもに希望を持たせようと努力する母親、つまり子どもたちからすればおばあちゃんとの間も、壊れてしまう。子どもたちは、そんなパパを見つめている。子どもたちは怒るのではない。パパを、ちゃんと見ている。
 クリスマスに、いわば奇蹟が起きる。それは、SFでもファンタジーでもない。極めて現実的な、ありうる状況である。ただ愛だけが起こすことのできる、奇蹟であった。
 こういうお話には、私は駄目だ。涙が出てくる。笑みを浮かべながら泣く男が、電車で立って本を読んでいるという風景も、客観的に考えるとゾッとするものだが、「心の暖炉に火を灯す」という本の帯のキャッチフレーズは、決してオーバーではないと、読了語理解する。
 これは一つのクリスマス物語。タイトルにそんな言葉も載せてある。クリスマスには、亡くなった愛する人も、そこにくるのだ、という伝説もだが、「古い火」を燃やす伝統が、伏線というよりはバックボーンとなって、大団円へつながっていく。アメリカのホームドラマ風であるのは、作家がそういう脚本家でもある故なのかもしれないが、決してそんなに安っぽいものには感じない。いかにもアメリカだと言わせながら、やっぱりその火は読者の心にも火を灯す。いい気分になりたいなら、ちょっと冬にお勧め。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります