本

『ポスターをつくろう! 表現を工夫しよう!』

ホンとの本

『ポスターをつくろう! 表現を工夫しよう!』
デジカル作
NPO法人地球こどもクラブ協力
汐文社
\2310
2010.12.

 シリーズもののひとつであり、子どもに、ポスターとは何かを的確に教えてくれる良い教本である。それも、幾冊かに分けて、テーマ毎に丁寧に教えてくれるので、自分の考えたい方向から一冊選べば、いろいろ深いことを学ぶことができる。個人で揃えるのは難しい価格であろうから、学校図書室に置いて欲しいものであるし、またそのような販売を考えて制作されたものと思われる。
 今回は、表現。絵の描き方など、ハード部門ではなく、ソフト部門と言えようか。
 まずは、ポスターというものの歴史を説明する。それは、ただ歴史を知るというだけでなく、そもそもポスターとは何のために始まったものであるか、を考えさせてくれる。つまり、今からポスターをつくる子どもたちにとり、「何を伝えるか」が非常に大切であることを知らせることになるのだ。
 挙げられている例が分かりやすい。ピアノと演奏者を画面いっぱいに置くことで、力強い演奏を期待させる一方、それらをこじんまりと描くことで、落ち着いた演奏会を連想させるというわけである。その横の、地球のポスターはまた実によく分かる。「宇宙から地球を考える」という同じコピーと、同じ地球の絵であるのに、宇宙船が配置してあると宇宙開発を連想させるが、ただ地球だけが宇宙に浮かんでいるポスターだと、関心が地球そのものへ向かい、地球を大切にしなければというメッセージが伝わってくるのだ。
 こうした効果を、具体的に示してくれるという意味で、こうした子どもに対する企画は重要であるし、また、いつものことだが、大人にも一目で訴えて理解させてくれるわけだから、決して子どもたちだけのものに独占させておく必要はないと言わざるをえない。
 この「伝える」というのは、簡単なことではない。また、自分の中に、これを伝えたい、というはっきりしたものが見つからない場合もあるかもしれない。だから、主題を明確にすることを教えるために、本の半分を用いているのではないかと思われる。
 その上で、デフォルメの効果と、色のもつ意味がよく解説されている。色相から彩度、明度の違いは中学校の美術の必須学習事項であるが、それも網羅されている。とくに、それぞれの色のもつイメージは、大人が見てもありがたい。色のもつ意味や象徴性は、なんとなく体験的に理解しているとは思うが、こうはっきり並べられて一目で分かるようにしてあるというのは、案外珍しい。
 具体的な例が豊富であることが、何よりわかりやすさの基本である。小学生に、抽象的な説明はよろしくない。「禁煙」というコピーよりも、「タバコ」を出すほうがよい、とはっきり示されているのは、確かにそのとおりである。
 そうして最後に、コンクールに応募するために、いくつかの門が紹介される。こうしていくつかの機会を知ることにより、身近な募集にももっと関心をもつことができるだろう。
 このように、この本で情報がすべて得られるとは言えないが、ここを入口として、もっと奥深く広い世界へつながるものが感じられる。それが、教育というものであろう。しかも、基礎において的確な内容をきちんと伝えておくことによって、以後の子どもたちの歩みを順調にする効果が期待できる。
 ポスターを描いてみようという人、興味をもった人は、ぜひ手にとってみるといいと思う。




Takapan
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