本

『よくわかる「ポカヨケ」の本』

ホンとの本

『よくわかる「ポカヨケ」の本』
藤井春雄
日刊工業新聞社
\2100
2010.1.

 タイトルの「ポカヨケ」が人目を惹く。本は「ナットク現場改善シリーズ」のひとつだという。なんとなく、感覚的に分かるような気がした。いや、分かりにくいかもしれない。少なくとも私たちの日常の語彙には、これはない。
 人間だもの、いつも完璧というわけにはゆかない。間違うこともあるんだよ。でも、間違ったら、その原因を考えて、この次から同じ間違いをしないようにするにはどうしたらよいか、と改善していけるのも、また人間というものなんだよ。私は、子どもたちにそのようなことを言う。間違っても構わないのだ、と。でないと、ノートの間違いを書き直してマルをつけ続ける子や、テスト中に周りの子の答案を覗いて書き写すといった子が、絶えないからだ。
 人間は、間違いを犯す存在である。この前提に立つとき、その間違いをどう最小限にすることが可能か、ひどい被害にならないようにするにはどうすればよいか、せめて次善の策でもよいから、いざミスが起きたときにどうすればよいか、こうしたことを想定して、構えておくのが望ましい。ちゃんと言っておいたから伝わっているはず、と楽観していると、後で大変な目に遭う、これが日常なのである。
 ミスのことを「ポカ」とも呼ぶ。これを避けるための知恵が詰まった本である。それは抽象的にではない。様々な現場において想定される、あるいは実際に起こったミスが具体的に描かれ、それを防ぐためにはどうすればよいかの対策が説明される。この本の殆どのページはその繰り返しである。日刊工業新聞社である故もあり、工場の現場でのミス防止、あるいはミスが起きたときの対処法とその時のための準備というものが、まず沢山挙げられる。労働災害を減らすというのが、まず重大な懸案事項なのである。次いで、顧客からのクレームを減らすため、それを最小の影響に留めるためにはどうすればよいか、具体的に解決方法が示される。どれも、なるほどと思うものばかりである。
 もちろん、すでに私が知っていて実行しているような知恵もある。いや、実際どれも、言われればその通りだと思う対策ばかりである。むしろ、こんな簡単なことで防げるミスが、どうして世の中にこれほど多いのか、と嘆きたくなるほどである。実に簡単なこと、小さなことなのである。ちょっとしたことに気づいて、予測して、あるいはそれが起きてしまったときの被害を食い止めるためにはどうすればよいか考えておく、その程度のことなのである。
 客からのクレームは最大のチャンスだ、という鉄則がビジネスの世界にある。わざわざ欠陥を指摘してくれたのだ。それを改善すれば顧客の満足度が上がる。また、そのクレームを出した客に対して誠意をもって対応することで、逆にそれまで以上の信頼を得るということもありうるのだ。予めクレームになることを予想して、それが起きないように失敗の道を塞いでおくことは、これまた顧客の大きな満足につながるに違いない。
 そういうわけで、いくらかの特定の現場に限られた実例ばかりで埋まったこの本だが、どういう職場であっても、あるいは家庭や何らかの集団であっても、どういう点を先回りしておけば良い結果が生まれるものか、それらの具体例をよく体験することで、新しいアイディアや留意点が、心に刻まれていくのではないかと強く思う。また、人間はそうでなければならない。
 繰り返し、歴史にある失敗を繰り返すのは、知恵がない。私たちが歴史を学ぶのは、このことの故でもあるのだ。どうしたら人々が仲良く生きていけるのか、これが社会科の理念だとすれば、失敗を安易に繰り返さないために絞った知恵は、歴史においてもまた、私たちに有意義な未来をもたらしてくれることだろう。




Takapan
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