本

『「星の王子さま」の謎』

ホンとの本

『「星の王子さま」の謎』
三野博司
論創社
\1575
2005.9

 旧い版権が消えて、新しい訳が生み出されることとなった。『星の王子さま』という不思議な本について、専門家が説明を施してくれる。
 だが、思ったほどのぞくぞくしたものは得られなかった。
 章毎にていねいな解説が施され、そこに含まれた意味や、サン=テグジュペリの経験や人生を踏まえた解釈の存在を指摘したり、これこれはなになにを表していると言われていることが克明に記されているには違いないけれども。
 心躍るような内容が含まれているに違いないのに、どうしてだろうと考えていたが、もしかすると、これは論文としてのまとまりに優れているせいではないか、と思うようになった。
 一つ一つの記述は詳細で、確かな根拠を示そうとしている点はよく伝わる。だから、表紙のかわいらしさや、タイトルのポピュラー性から連想して、わくわくさせてくれるのかしら、とこちらが勝手に思い込んでしまったのが、いけなかったのかもしれない。
 というわけで、星の王子さまのファンの方々にも、これはしっかりとした論拠を伴う貴重な資料あるいは論文としてご利用戴きたいと願う次第だ。
 なにせ、『星の王子さま』の著作権が切れて、新訳で登場することが話題に上って間がないけれども、その訳者その人が、この本を書いているのであるから。ただし、この人はカミュの方に詳しいようで、フランス文学を広く見る眼差しという意味から、王子さまを見つめていくことに長けており、必ずしも王子さまにオタク的であるわけではないことも、申し添えておかなければならないだろう。




Takapan
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