本

『プチ哲学』

ホンとの本

『プチ哲学』
佐藤雅彦
中公文庫
\680
2004.3

 すでに2000年に出版されたものに若干の補遺を加えて文庫化したもの。従って、かつてお読みの方もいらっしゃると思う。今回私は、この本を購入した。
 シンプルな表紙も、タイトルも、私にとり魅力的なのだが、それにもまして、この著者が今をときめく佐藤雅彦ではないか、という思いで手に取ったのである。
 佐藤雅彦。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの「佐藤雅彦研究室」を運営する。「ドンタコス」「バザールでござーる」のCMは強烈なインパクトを私たちに残した。「だんご三兄弟」の大ヒットは知らない人はいないだろう。そして今、革命的な番組、「ピタゴラスイッチ」のピタゴラ装置を製作。
 多湖輝が心理学的な側面から『頭の体操』という画期的な世界を切り拓いたとすれば、佐藤雅彦は、数理または論理的な側面から画期的な世界を創造したと言えるだろう。
 このような大げさな前置きなどしなくても、ただこの文庫を手にとって戴ければそれだけでいい。可愛いイラストによるコントめいた説明が、私たちを不思議な思考の世界に誘う。
 同じ行為が状況により違った意味をもつこと、結果を求めるような場合も経過を実は重んじているようなケース、弱点も有効に利用することができること、情報がないことが一つの情報となりうること、同じ情報も受け手により違う価値をもつこと、結果を想定して逆算して考えるとよい場合があること、などなど、私たちの日常生活の中で気づくことの大いにありうる、思考法則やヒントなどが、ふんだんに盛り込まれている。
 それは、肩に力の入った哲学とはたしかに異なるが、思考の筋はたしかに哲学である。自己認識という近代哲学でヨーロッパ人を悩ませた一大テーマが、簡単なマンガで示されているところなど、爽快である。辞書君が、自分とは何かと考えたが、自分では辞書が読めないので、友だちに読んでもらおうとしているだけの絵なのだ……。
 正直、やられた、という感じ。私がいつも心がけているような発想法が楽しく描いてあるからだ。哲学とは、哲学の歴史を語ることではない、と大学時代によく教えられたが、それでも大学は、歴史上の哲学や哲学者を調査研究するばかりだった。この本には、そうしたものがまったくないのに、哲学のエッセンスを十分に、しかも私たちに役に立つような仕方で教えてくれる。私も、そのような考え方、自分で考えるということを、子どもたちに教えたいと願っている。
 この本は、そのための教科書としてよいくらいだ。




Takapan
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