本

『「ペットロス」は乗りこえられますか?』

ホンとの本

『「ペットロス」は乗りこえられますか?』
濱野佐代子
角川書店
\1600+
2024.6.

 著者は獣医でもあり、心理学も学んだ。動物について身体的なものを十分知り、その後、ひとの心の研究にも勤しんだ。こうして、人と動物の関係についての研究を専門とし、人がペットを亡くしたとこの心の支えのために力を注いでいる。
 サブタイトルに「心をささえる10のこと」と挙げ、実際章の数は10であるわけだが、私の感覚としては、項目を10チェックして数え上げる必要はないような気がする。それは、本書がしくじっているという意味ではない。むしろ、最初から最後まで、ペットを亡くした人の心に寄り添って、懸命にアドバイスしているところがよい、という意味である。
 確かに、ペットを亡くした人はがっかりしているだろうということは、誰にでも分かる。だが家族を亡くした場合の悲しさに比べると、ペットの場合、他人はそれほど深刻には見ないだろう。だから、人の場合よりももっと気楽に、「いつまでも悲しんでいるとペットちゃんも悲しみますよ」とか、「また新しいペットを迎えれば気持ちも変わりますよ」とか、親切心のつもりで、軽々しく言葉を投げかけることがある。これが、如何に人を傷つけることか。
 いろいろな事例が登場するが、プライバシーを守るための配慮を十分している旨、巻末に触れられている。かなり抽象的に扱われているため、生々しいレポートは期待できない。それでも、十分ありうることや、実際に私たちも見たかもしれないような光景が、随所に展開される。
 著者の、あたたかな心が、随所に鏤められている、ということだ。自分を責める気持ち、後悔の念、そこからどうやって回復できるのか、その実例などが、語り続けられる。
 文字が大きい。行間もたっぷりある。ときおり、犬や猫の、少しとぼけたようなイラストが並ぶ。章毎に、MEMORYとして、思い出したことがすぐさまメモできるようにもなっている。読んでいて、思い出したペットのことを書けるように、あるいは思い出している自分を慰める言葉が浮かんだら書けるように、配慮してあるのだろうか。
 このように、ゆったりした構成の本である。A5サイズで100頁ほどの本だが、私はあっという間に読んでしまった。図書館から借りた本なので、書きこむわけにはゆかないからだ。
 おまえはペットを飼ったことがあるのか、と訊かれるかもしれない。子どもの頃、家には犬がいた。残飯を食べるのが仕事で、番犬の役割も果たしていたはずだった。朝、倒れていた。いわゆるペットというわけではなかったから、本書の範疇には入らないことだろうと思う。
 今以て動物を飼える環境にはないのだが、公園に住む地域猫たちを見守っている。ボランティアさんが朝晩ごはんを届け、水を入れ替え、家の掃除や冬のカイロ取り換えなど、雨の日も嵐の日も休むことができない。私にはそこまではできない。だから、費用の面を、毎月わずかだが協力させてもらっている。その半分は、猫缶などを実物で提供する、という具合である。
 あとは、毎週公園で猫たちと会うばかりだ。どうしてそうまでするのか、というと、コロナ禍のとき、医療従事者の妻の心を癒やしたのが、この猫たちだったからである。とくに私たちには、イチオシの猫がそれぞれいた。妻を支え続けた子は、2023年の終わりに、病気で亡くなった。ボランティアさんの家で保護され、最期の様子も撮影されたものを見せてもらった。私には、別の猫がいた。心優しく、争わない猫で、仲間たちの間でもちょっと引くタイプだった。この子も、病気になった。癌が見つかったのである。気管切開の手術も受けたが、癌そのものが巨大化し、切除できないほどになっていた。息苦しそうにしていた彼を、公園で1時間ほど膝に抱いていたこともあった。その後ボランティアさんの家に匿われ、何度か会いにも行ったが、ある日の夜中に、倒れていた。私が偶々休みの日を選んで、彼は虹の橋を渡ったのだった。そのため、葬儀に加わることができた。
 本書にも、こうした別れに対するアドバイスもいろいろ書かれているが、こうした経験があるからこそ、書かれてあることが、しみじみと分かることがあるのだ。
 週に一、二度会うだけの子に対しても、こうなのだ。毎日家に飼っていた猫が亡くなったとしたら、どんなに辛いだろう。「ペットは決して消えてなくなったわけではありません。あなたの中にも、あなたの親しい人たちの中にも、あなたの大切なペットは存在しているのです」との著者の叫びは、読む人の心に、響いてくるだろうか。
 人を喪った場合にも、グリーフケアというものがある。だが、ひとつ心に残ったエピソードがあった。そのグリーフケアの人の講演があり、講演者と直接短い話ができたのだという。それで著者が職業を尋ねられ、ペットロスの研究をしている、と答えたら、えらい剣幕で怒鳴られたということだった。人とペットと一緒にするな、という怒りだったそうで、ずいぶんとショックを受けた、という話だった。
 人と動物は、一緒ではないだろう。法的にも、人は人だが、動物は物である。だが、愛する側の心に質的な差があるわけではない。亡くした悲しみを異質にしてしまう理由はない。著者はその考えで、ペットロスのグリーフケアの紹介も施している。あたたかな配慮がありがたい。
 著者は「あとがき」で、読者に「あなたの気が遠くなりそうな悲しみ」に価値があることを呼びかけている。そして、あなたの愛情が光なのだ、と言い、闇の中の救いとなるのだ、と慰めている。こうなると、もはや信仰であるのだが、私はその信仰を踏まえて、生き物を見ている。聖書をガチガチにファリサイ派の人々のように読むタイプの人は、動物の救いなどありえない、と言って、ペットロスの人を傷つけることがある(実際それを見た)。信仰がひとを傷つけてどうするのだろう。それなら、たとえその信仰を持ち出さなくても、本書のように、悲しいひとに寄り添ってゆく、あたたかな心のほうが、よほど神に近いのではないだろうか。
 ヒントを10、数える必要はないだろう。本書全体が、辛い思いの人に、そっと寄り添って慰めてくれるに違いない。




Takapan
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