本

『パーソナリティ障害がわかる本』

ホンとの本

『パーソナリティ障害がわかる本』
岡田尊司
法研
\1500+
2006.5.

 よい目的が表紙にも書いてある。「障害」を「個性」に変えるために。だから、いたずらに病気や異常性を強調するようなことではなく、またそれを必ず治療して消さなければいけないというような方向ではなく、たとえいまはそれが障害としか言えないようなものであったとしても、それが危険性の薄い方向に微妙に変化することで、優れた「個性」になることができるのだ、という視野を提供している。これがこの本の特長である。
 パーソナリティ障害は、近年大きく取り上げられるようになってきている。各方面に増しているからだろう。この本は偶々10年前のものとして私は手にとったのだが、決して古いという印象は抱かなかった。むしろ、バランスよく多くの型がそれぞれに扱われていて、比較しやすいのも利点だった。
 というのも、一口にパーソナリティ障害と言っても、実に様々なタイプがあると分類されているからだ。しかも、正反対のような振る舞いをするものもある。こういう言い方をしてよいのかどうか分からないが、人とうまく接することのできない状況を、すべてこの「パーソナリティ障害」というバケツの中に放り込んでいるような気がしないでもないのである。
 だから、何かこの人は変なんだけど、と思うような人を頭において読んでいくと、全く違うというケースも多々ある中で、これはかなり当てはまる、と思えるパターンに出会うことができるのである。しかし、素人が、あの人はこれだ、と決めつけることはできない。精神科医としての著者も、精一杯出せる例や説明をここに示してくれているわけだが、専門家はさらなる区別やその人の微妙なあり方の中から判断を下すわけであって、ちょっと本を読んだだけで、素人が病名として判断できるというものではないからである。
 しかし、それでも、一定の方向性は見出すことができる。どう対処することが求められているのか、学ぶことができる。もちろん、その学びの通りに接すれば問題なくやっていけるかどうかは分からないとは思うが、たとえば明らかにこれはタブーだというような知識は役に立つことだろう。
 私も実は苦い経験があり、またそれは進行中なのであるが、その人がこういう症例にかなり当てはまるということについて、全く気づいていなかったのだ。それなりに、タブーとなることをぶつけてしまった。これでその人はいたく自尊心が傷つけられ、攻撃的になっていった。どんどんおかしくなっていっているのである。普通の人じゃない、と気づいて、いろいろ調べていくと、だんだんその根底にあるものが見えてきた。知り得ないのは、母親との関係であるが、だいたいどういうものか、この本の解説と推測は重なってくる。
 そのように、障害の原因を探ることは、大切である。その原因が定まれば、対処の仕方もある程度見えてくる場合があるからだ。だが、原因特定を目的としてはならない。原因を暴くことで満足するのが人の世の常だが、問題は、この人がこれから適切な社会生活ができるようになっていくことである。そうしないと、凶暴性を帯びてくると、何をしてしまうか知れないという可能性があるからだ。しかし、たんなる障害として排除するのではなくて、それを個性として活かすという視点がこのサブタイトルにある。この姿勢は見習いたい。奇妙なだから潰すしかない、と決めることはできないのだ。逆に言えば、そのようにするのが世の常であるということである。
 また、自分の中にもその性質があるのではないか、と考えてみるのも大切であろう。自分はすべてが正常だ、というところが、実はこの障害のひとつの特徴でもあるわけだ。ここに逆説めいたものがあるのだが、その点までも踏み込めば、この本はまた違う展開を見せて動けただろうとは思うが、いや、そんなことなくても、十分役割は果たしている。必ずしも全部の症例を読みこなさなくてもよいが、これは、と思うパターンと、最初の説明のところは、丁寧に読むとよいと思う。




Takapan
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