本

『図説 パウロの言葉』

ホンとの本

『図説 パウロの言葉』
船本弘毅監修
青春出版社 青春新書
\1189
2011.12.

 シリーズとして、『聖書』『イエス』と出版があり、船本弘毅先生の監修のもと、分かりやすい解説の図説がこのように多くの支持を得ているというのは好ましいことである。聖書というものを、少しでも分かりやすく、親しみやすく伝える役割を果たすために役立っているものであろう。
 Penという雑誌とそのまとめの本にあるように、同じ聖書の解説にしても、美術や文化という観点から主に紹介する手法とは異なり、まさに聖書そのものに書いてあること、そしてその思想性を明確に紹介しようとする試みがここにある。最近そういうものが多いのは、何か要請があるから、また知りたいという人々の気持ちが世の中にあるから、と理解しておきたい。
 今回はパウロ。新約聖書の多くの頁を、この一人の人物の文章が占めていることはよく知られている。中には、パウロの真筆ではないと見られているものもあり、定説に近い扱いを受けているが、逆に言えば、パウロに違いないとされているのもも多いということである。特に長い書簡、神学的も重要視される書簡については、パウロその人のものであるという理解が成立している。とにかく本文に「パウロより」とはっきり記されている。これで誰もが疑いなくそれを継承してきたものの、啓蒙主義以降文献学の発展により、真性のパウロ書簡とそうでないものとが研究されてきた。あるいはまた、だからこそこのパウロという人物に関心の矢が向かうということでもある。
 パウロは、直接イエスには会っていないことになっている。しかも、当初はキリストを信ずる人々を迫害し家々を荒らしていた張本人だったのである。それが、不思議な出会いをイエスあるいは神の霊と体験して、人生が変わった。キリストの僕となり、またキリスト教神学においてパウロの影響はもう限りないほどなのである。
 そのパウロの人生と、その周辺事情とを簡潔に、また図版を用いて分かりやすくまとめあげたのが、この新書である。単純なプレゼンテーションが、理解の度合いを増すように働く。学説的には、監修者の意見が表に立つが、そうぴりぴりしたところはなく、おおらかで標準的な解釈の道がとられているように見受けられる。つまりは聖書に関心のある人へお勧めしてよいだろうということである。
 逆にまた、あまりにも単純にまとめすぎているのではないか、と思われる部分もあるわけだが、とりあえずひとつの結論をポケッタブルな新書に閉じこめるためには、詳細にかかずらうのであっては判断を過つ。まずはおおまかな理解で全体像を押さえておくのは適切である。
 パウロを押さえるということは、聖書の成立そのものにも関わるわけだし、とにかく聖書を知るに欠かせない点である。また、初期教会形成を知るためにも、またキリストの教えが拡がっていくその重要な第一歩の辺りがどういう事情であったか、どういう力を秘めていたかなど、パウロ周辺を調べる意味は大きい。
 カラー図版もあるし、価値を金額で計るつもりはさらさらないのだが、それでもこの価格は若干高く感じる。文庫にしろ新書にしろ、値上がりの波は抑えることができない。そんな中で売れない、読まれないと悩む書店や出版社の事情を考えないはずはないのだが、買う側としてはちょっと痛い。もう少し安くするのは無理だっただろうか。
 エル・グレコのパウロの絵がメインの位置を占めていると言える本だ。だが、エル・グレコの絵は独特の魅力があり、パウロ像の標準にはなりえない。現代的な顔つきのパウロではないかとも思われるが、そういう話はともかくとして、手軽で携帯もでき、重要な点は確認しやすいので、たとえば礼拝説教にこのような新書を忍ばせておき、説教中は調べにくいかもしれないが、少なくとも直後に、不明点を調べる、といううよな使い方も可能であろう。




Takapan
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