本

『パパの涙で子は育つ』

ホンとの本

『パパの涙で子は育つ』
込山正徳
ポプラ社
\1260
2005.11

 シングルパパの子育て奮闘記。このあたりは、多分に出版事情により付けられたサブタイトルなのだろうと思う。フリーのディレクターである著者が、タイ人の妻に突如家を出られて、二人の男の子を抱えて生活を始めるという発端。身につまされるというか、よくぞ耐えられたというか、そのあたりの事情を包み隠さず記してくださっているので、そのときの表情までが手に取るように分かると思った。
 そうなのだ。この方は、文章が巧い。
 芸術的にはどうなのか分からない。しかし、自分の身に起こったできごとを、その都度効果的な文体や表現方法を用いて、人に伝える術をご存知である。
 それもたぶん、よい番組を企画し、制作してきた経験が、そのまま現れているのではないかと思う。
 私の場合は、妻がいて、家の中のことも子育てのことも、たいへん立派にこなしてくれている。そんなしっかりした支えがあることを背景にして、たまたま子どもと共にいる時間があるものとして、子どもと触れあっているに過ぎない。この著者のように、すべてを一人で抱え込んでいるわけではない。比較にならない。
 それでもこの人は、母親の助けを得たり、周りの人の理解を集めたりしながら、たんに一人で抱え込んでいるようにはしていない面もある。物事を少しでも明るく捉え、乗り越えていこうという逞しさを感じる。羨ましいと思う。
 子どもとの会話もいい。小学校低学年の息子に向かって、人生論を熱弁することも度々あり、父親ってそういうのが必要だよな、と私は拍手を贈りたくなる。世の中に対するスタンスも、的確な批評と自分の客観視とで、実にバランスがとれている。
 つまりは、読んでいてたいへん好感が持てる。
 深刻な話であるはずなのに、読む方が、温かなものをゆったりと感じる、不思議な本であった。そして結末については……読んでからのお楽しみとして戴きたいものである。




Takapan
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