本

『親のこころ』

ホンとの本

『親のこころ』
木村耕一編著
一万年堂出版
\1,500
2003.8

 全体がカラー構成であり装丁もしっかりしていて分厚いにも拘わらず、この価格。何か怪しい本だろうかと思われる雰囲気もある。もしかするととくに何らかの思想を植え付けるための本ではないか……。
 いや、読むと違った。それどころか、電車の中で読みながら、私は涙を流してしまった。切ない本であった。
 親の恩というテーマで体験談を募集したために集まったエピソードをふんだんにちりばめつつ、昔から伝わる孝行話をも連ねている。ともすれば妙な道徳を振りかざすようなことになりかねないと警戒する必要もなかった。これは純粋に、親への「ありがとう」を並べた本であった。そこから何かある別の結論を導こうとか、別の神的原理を持ち出そうとかするものではなかった。そこにあるのはただ単に、お母さんありがとう、の涙と、悔やむ思いの交錯とであった。
 個人のエピソードも味わいがあるが、歴史上の人物の孝行話がためになった。なんとなく知っていても、その正確なところは分からないというものもあっただけに、今回それが明確になったのは嬉しかった。
 水戸光圀から良弁杉の話に始まり、貝原益軒や野口英世、孔子や芥川龍之介といった歴史的人物の孝行にまつわるエピソードが並ぶ。石川啄木も取り上げられるし、エジソンのような外国人もそこに並んでいる。姥捨山の話から、猿のエピソードによる断腸の思いの紹介など、興味深いものばかりであった。上杉鷹山はケネディ大統領にも尊敬されるとして挙げられた人物。そこにも孝行に関する話が隠されていた。今風に言えば差詰め、○○秘話とも言われるような内容である。最後のほうには、ドラえもんののび太のエピソードもあるし、岸壁の母の話もある。モデルの男性が最近生存が確認されたというのは、私は覚えていなかった。寿限無にも親の愛が隠れており、黒澤明の「生きる」の映画紹介も切なかった。もちろん孟母三遷の教えや断機の戒めも外せない。
 というわけで、どうか涙を流すためというわけではないにしろ、心が洗われるような思いをこの本から感じて戴きたい。賛美歌にも母の日の歌がある。それらに心が刺されるような思いをしないならば嘘である。私たちは今一度心を落ち着かせて、自分の存在根拠ともいえる親の愛を真正面から捉え直し、何かを初めてみたらどうだろう。
 かくいう私も、親の立場になってしまった。自分の子に、この本を読ませるにはまだ早過ぎる。言えることは、子に願う通りに子が育つわけではないにしても、親の真摯な生き方は、子どもに必ず反映するものだ、ということ。
 この本から、涙を得て戴きたい。そのとき、何か生き方が変わるかもしれない。私はもう、打ちのめされました。




Takapan
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