本

『親と子の動物行動学』

ホンとの本

『親と子の動物行動学』
小原秀雄
教育出版
\1,800
2003.8

 サブタイトルは、「野生動物の一生から学ぶ」。動物が親として子として営むことは、その種を継続していくために必要な、最低限の、そして最大の仕事である。そこには、愛情溢れる図式も成り立つし、誰が言い始めたか、さも真実のようにまかり通っている嘘もある。オオカミに育てられた少女の話など、偽りであると著者は指摘する。それはすでに何十年も前に立証されているというのに、いまだにまことしやかに語られるのは問題だという。ゾウは年老いると一人密かに死ぬためにゾウの墓場に行く、という話を私も読んだことがあるが、それもまたない話だという。著者は、厳密な動物学の観点から、動物の行動について、分かっていることといまだ分かっていないこととを区別し、分からないことは分からないと正直に語る。だからよけいに、著者が断言することには説得力が伴うのである。
 集団自殺する動物の話も聞く。種が増えすぎるのはバランスがよくないから、口減らしに自ら死を選ぶのだ、などと美談で説明されたこともある。しかし、それもたんにテリトリーの問題と、生きようとして海に入ったに違いないと説明されていく。その他、アライグマは洗わないこと、イタチは最後っ屁はないこと、犬と猿が本来的に敵対しているのではないこと、オシドリ夫婦の仲の悪さなどのよく聞く話への反論などもおまけのように面白い。
 衝撃的なのは、動物が子殺しをするという説明である。雄が雌を別の雄から奪うと、前の雄の子を殺すことがあるという。そのとき、その雌もその子殺しに関わることがあるともいうが、それは混乱のときであり、雌はさすがに子を守ることもあるという。チンパンジーのように、新しい雄が子を食べてしまう話などは凄惨である。たしかに平和な状態では、子を殺すものではないが、異常事態に陥るとどうなるかは、まだ十分に解明されていないのだそうだ。
 かくいう人間様はどうなのだろう。解明されているといえるのだろうか。
 パンダについても記述がある。パンダの繁殖について、これほどコンパクトに、正確に説明されたものを、見たことがない。学術用語の説明も欄外に随所に施されており、実に明解に読み進むことができる。
 ところで、さまざまな動物たちのあり方に、奇想天外云々という感想をもつだけで終わるのがテレビ番組だとするなら、この本は少し違うような気がする。どこを読んでいても、そして著者は何一つほのめかすような書き方をしていないにも拘わらず、私は人間の、そして自分の子育てや人生について、考えを及ばさないではいられなくなるのである。――いや、ほのめかしていないなどというのは大嘘であった。著者は前書きにおいて、はっきり述べている。「ヒトはこうした自然の歴史を負って、社会と文化とによって人間化して独特な生活の方法(最近は生活戦略といったりする)を身に付けた。人間の個性、その人生がかけがえのないことが、こうした動物の生態を知ることで裏づけられる。この本は、それを目的として書かれたものである。」




Takapan
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