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『これならわかる キリスト教とイスラム教の歴史Q&A』

ホンとの本

『これならわかる キリスト教とイスラム教の歴史Q&A』
浜林正夫
大月書店
\1470
2005.1

 出版社で偏見をもつのはよくないが、もしかすると、という予感はあった。
 ちらりと見ると、内容的には簡潔に的確に記されてるいるかのように見えた。
 だが、この本はよろしくない。
 予め一定の見解の下に、偏った見解を正論のように言い放っている。恰も、宗教について公平に説明しているように装いながら、たぶん意図的に随所で一定の意見こそが正当であるかのように印象づけようとしていた。
 宗教が、きわめて社会的な現象であり、とくにこの一神教が残虐な面をもつことが激しく強調され、さらに、キリスト教については、イエスの復活はただの「作り話」だと根拠なく断定している。他の信仰内容には、「……といわれている」などという書き方をする程度の常識は見せておきながら、こと復活にかけては、何の説明もなく、ただの「作り話」と言って終わりである。これでは、新約聖書にすでに記されている、ユダヤ人たちの間に伝えられているという逸話止まりである。
 著者は、略歴から察するに、イギリスの政治思想史の専門家のようである。社会現象として宗教を捉えることそのものがいけないとは言わないが、Q&Aの凡ゆる場面で、信仰などというアヘンに惑わされず、理性的な判断だけをすれば、残酷なことをしなくて済む、というメッセージがひしひしと伝わってくる。
 つまり、宗教は危険だ、ということが、言いたいことのほとんどすべてなのである。
 たぶん、世間で、キリスト教とイスラム教の対立のような図式が気にされ始めたものだから、その関心をもつ人にこの本を読ませて、いよいよ宗教、とくに一神教というものは危険なものである、という判断を下させたいがために、出版してきたのだろう。この意図については、おそらく間違いがないと思われる。
 また、モルモン教やエホバの証人という、社会的非難を浴びているグループも、大した根拠なく、キリスト教の一つだと説明している。
 キリシタンについても、かなり偏った説明がなされており、読者に印象づける内容が、かなり意図的であることは否めない。
 韓国へのキリスト教の伝わり方にしては、どうやら史実と異なり、たんに日本帝国主義への抵抗であったり革命的思想であったりすることだけがやたら強調されている。
 イスラム教については、私は論点の奇妙さを指摘するだけの知識をもたないが、恐らく似たような結論が現れることだろうと思う。
 易しい形式の宗教解説のようでありながら、これはたんに革命思想の肯定や天皇制反対の運動と、宗教の危険性とを植え付けようとするだけの本である。用心して戴きたい。
 
 なお、野口宏という人による、パレスチナとイスラエルの歴史についての、同様のQ&A形式のシリーズも発売されていることが分かった。
 ついにこれは読む気が起こらなかった。が、目次を見ただけで、だいたいのところは分かった。
 こちらは、イスラエルとアメリカを悪そのものとし、パレスチナを善の側にして説明刷る本である。パレスチナ側がテロをしたのは「本当ですか」という問いにもそれが現れているし、そこの解説には、たしかにそれはあったが、その報復に出たイスラエルのほうが残虐だということのために多くのスペースを割いている。
 イスラエルとアメリカは悪であるというイメージを植え付けようとするだけの本であろう。
 Q&Aという、いかにもフェアな立場であるかのように見せかけて、極端に偏った意図で作られているというやり方が、私には詐欺的に見える。
 こうしたやり方でシリーズを形成している以上、私としては、この書店には危険だというレッテルを貼らせてもらうことにする。




Takapan
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