本

『大人のための社会科』

ホンとの本

『大人のための社会科』
井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作
有斐閣
\1500+
2017.9.

 こういうのって、いい。確かに新聞解説は見事だし、事情通の人が穿った見方をしてなるほどと思わせるのも魅力がある。だが、そもそもそれってなあに、というところから、多くの人はそんなに分かってはいない。だいたいこういうことでしょ、とか、つまり悪いことしたんでしょ、とか、そういう程度で、評価と結論だけを受け容れて、世間を判断しているというのが、ありがちなことではないだろうか。その結果、選挙で投票したところで、何か勢いのいいマスコミに同調したり、自分が固執するある問題だけですべてを決めたりすることになりかねない。そうして、後から、知らなかった、そんなはずでは、などと不満を抱くようなことにもなる。
 いつでも、基礎は大切なのだ。いったい何故それが問題になっているのか。それはどんなことから起こり、またどんな影響をもたらすと思われるのか。そのために私たち一人ひとりがどのように関わり、どうすれば改善できるのか。
 本書が最初に提言しているように、私たちは、ニュースをたくさん仕入れ、いろいろな情報量を誇っているかのように見えながら、実のところ自分自身は「思考停止」しているのではないだろうか。自分の頭で理解し、考えようという気力を、失ってしまっているのではないだろうか。
 一人の思考は非力かもしれない。しかし、美味しそうなエサに騙されて票を投じているというこにとさえ気づかず、社会を構築する責任を自分が負っているということにさえ気づかず無責任でいるような私たちのあり方は、一人の思考から確実に変わる。その一人の集まりが社会だからだ。
 子ども向けに割り引いたりしない内容。大人のための、社会科の教科書。そういうコンセプトで、強い意志で築き上げた、小さな本。副題に「未来を語るために」と、熱い思いがこめられているように感じる。表紙は、手塚治虫のタッチのコピーとして有名な田中圭一。様々な人が社会にいるのだということを覚えさせる、よく寝られたイラストとなっている。この本は、万人のためのものなのだ。
 章のタイトルになっているものだけ拾ってみよう。
 GDP・勤労・時代・多数決・運動・私・公正・信頼・ニーズ・歴史意識・公・希望  どうだろうか。これだけで、わくわくしないだろうか。通常の「教科書」とは一線を画した編集である。そして、ピンとこない項目もあるだろうと思う。だが、これが実に自分の生活に密接に関わっているか、そして自分の運命を変えるほどの重みをもっていることを、読めば覚るのである。なんと無責任にこれまでやってきたことか、と我が身を嘆くような思いさえ私は抱くのであった。
 未来を語る。その眼差しは、今日から自分が変われば、未来も変わるということを意味する。近年「信頼」というテーマが大きく取り上げられるようになってきているという指摘は、私にとりはっとさせられるものであった。それが、最後に掲げた希望へとつながっていく。信仰が希望へとつながることと、重なって感じられるからだ。
 その根底には、愛がなければならない。キリスト者の強みは、そこだけだ。




Takapan
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