本

『大人のしくみ』

ホンとの本

『大人のしくみ』
ビル・バーナード
曽根原美保訳
光文社
\1575
2005.11

 サブタイトルに「10代のための哲学」とある。日本にもこの種のものがちらほら出ているが、さてどちらが先なのだろう。どちらが先ということもないのだろうか。
 たしかに、ティーンエイジャーの水先案内人のような役割を果たすための本である。それは、私たちの教育というものの本質的なところを突いているかのようにも思える。若者たちをどう方向付けるかということが、なんとしても、次世代に対する社会の最大の関心事だからである。
 アメリカで書かれた本である。そのため、のっけから、セックスの話題が飛び交う。日本の10代のためには、どうだろうか。アメリカとて、これは高校生年代辺りを標準においているかのようにも見えるので、タイトルからすると、12歳でも手にとってみたくなるところがあるが、ハイスクール世代のための哲学くらいの視点で売りに出したほうが適切ではなかっただろうかと思う。セクション毎に、実際の若者のケースが紹介されているが、それとてたしかに13歳というのも見られるが、大半は高校生年代なのである。
 それは、マネーに対する頁か多く割かれていることについても、またその内容についても、世代的にそのくらいを的にしてよいのではないかという気がしてくるのだ。とくに、日本では、なおさらだ、と。
 それはさておき、この本の視点には、ドキリとさせられたことが少なくない。余りにも綺麗事で並べてあるわけでもなく、かと言って何のカノンもなく自由奔放が謳歌されているわけでもなく、言ってみれば、実に保守的で説教臭いオヤジが教えたい内容でしかないのだろけれど、その方法がふるっている。語り口調で、それも現実的で若者が耳を貸すような論理を以て、迫ってくるのである。
 学校で教えられる教科なんて、世の中で役に立つかどうかは二の次だ、と著者はぶちまく。ただ、そうやって訓練されていくことにより、社会で「できる」ための能力が身についていくのだという。さらに言えば、勉強ができるかどうかテストされているのは、要するに社会人として、たとえば企業が君に期待している能力をもっているかどうかを量られているのだ、とさえ言う。勉強にさえ忍耐できないような人間を、世の中が、何かのためにその人間が役立つと認めるはずがない、というふうなことである。
 また、年をとると時間が早く感じられるということについて、こんなに簡単に単純に、納得するような説明をしてある(66頁)本を、私は見たことがない。
 親として、こんな説明を、子どもにしてみたいものだと羨ましく思う。
 いや、そうなんだ。これは、ティーンエイジャーが読むための本じゃない。その親が読んで、自分の子どもに説明してやるべき本なんだ。これは、大人たちこそ、読まなければならない本なのである。




Takapan
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