本

『大人になって困らない語彙力の鍛えかた』

ホンとの本

『大人になって困らない語彙力の鍛えかた』
今野伸二
河出書房新社
\1300+
2017.11.

 図書館で見た本であり、内容的には高校生あたりが適切であろうか。中学生でも少し大人びた生徒は読めるかもしれない。多くの事例によって考えが進められていくわけだが、挙げられた言葉はなかなか難しい。大人でも全部知っているよとは簡単には言えないであろうから、どうぞこども向けだなどと思わずに、大人も機会があったら挑んで戴きたい。よい刺激になるのと、なるほどと目が開かれる場面が多々あるものと思われる。
 と思ったら、このシリーズは「14歳の世渡り術」という名前で、中学生から大人まで、という基準で発行しているものであるらしいと知る。いやあ、まあ考えた通りではあるが、「大人になっても困らない」のフレーズが、大人の手を引かせる働きをしている点は否めないだろう。
 まずは「語彙」というタイトルにある言葉から入る。これって何か。大人はもちろん知っている漢字は書けなくても知っている。ボキャブラリーと言い換える人もいる。しかし、その意味は何だろう。「彙」とは何の意味をもつ漢字なのだろう。これがハリネズミである、という「はじめに」から入るのが面白い。アタリとしてはまあ特に真新しい方法ではないが、語彙をテーマにした本が、語彙そのものから、少しパラドキシカルに問いを突きつけるというのはよい方法だ。
 そもそも本書を読み解くためにも、語彙は必要である。その上で、どんな語彙を使っていくかという点で、実例に沿っていろいろアドバイスしていく。確かに、語彙を増やすということは必要であるし、私も子どもたちにそれを強調する。とくに受験学年でない子どもたちには、いまのうちに語彙を増やしておけ、とやかましい。受験学年になると、テクニックを覚えるために、語彙のために使う時間が限られてきてしまうのだ。
 しかし、ではどんなふうに増やすのだろう。ただ暗記すればよいのだろうか。いや、語彙を私なら、漢字と共に覚えよと言う。もちろん漢字のない語は仕方がないが、そういう和語にしても、実は学校では習わない漢字の用法がある、ということがある。そのようなときには、漢字の意味を理解するという意味で、漢字を使って理解するとよいと思うのだ。また、基本的に例文で理解して覚えていくということを提案する。語は使い方を知らない使えないし、また意味を理解したことにならない。そして、実例の文で心に納めておくことによって、適切な意味を知ることになると思われるのである。
 著者は、その道のプロである。これまであちこちでこうしたことに触れているだろうし、一定のネタというものを持ち合わせているに違いない。また、授業でいろいろ使い慣れている例というものを本に示すのはそう難しいことでなく、生き生きと伝えることができる。その時の学生の反応なども思い起こしながら、記していけることだろう。その意味でも、読んでいて退屈することがない。時折問題が出され、それを真剣に考えると時間を食うことになるだろうが、なるほどよい問題が出される。大人でも言い換えの難しい問題がたくさんあり、やはりこれはひとつのテストとして試されたらよいのではないかと思う。
 著者が、タイトルにある「語彙力の鍛え方」について端的な解答は何だろうかというと、最初のほうで「ひも付け」という技であろうか。言葉を関連づけた中で取り入れていくことである。これはもちろん概念の分かっている場面でしか使えないが、説得力のある考え方であり、学習に取り入れることは可能かもしれない。しかし母語であれば、とにかく片端から身につけていくしかないだろう。後から整理されていく、というのが実情に近いのではないだろうか。
 終わりの方では、ことば遊びについてだいぶ頁が割かれている。それが楽しい人もいることだろうし、中高生は、こういうのでもいいんだ、と面白がるかもしれない。ただ、私には少しそれが長すぎるような気がした。ただ、ことば遊びというのは、確かに悪くない。ほかにも、なぞかけや無理問答のような、伝統的な知恵を紹介する一幕があってもよかったのではないか、などと思っただけのことである。




Takapan
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