本

『男らしさという病?』

ホンとの本

『男らしさという病?』
熊田一雄
風媒社
\2310
2005.9

 サブタイトルは、「ポップ・カルチャーの新・男性学」という。若い世代の助教授によるものだが、内容が実に「ポップ」である、などと言うとお叱りを受けようか。
 学術の従来の常識からすれば、カルチャーショックを受けそうな内容である。セーラームーンくらいなら少しは分かるが、マニアックな(という言い方も失礼だろうが)マンガやアニメの話が延々と続くことがある。ただ、そこで言いたいことが何であるかということを伝えるツボは心得ていらっしゃるので、オタク仲間の(何も否定的な意味で挙げているのではない)記号としての語らいとは訳が違う点は感じる。
 誠実である。自らがどういう立場や環境から発言しているかを、最初に明言している。だから、あらゆる議論において、この人のスタンスが明確なのである。これは、読む者を疲れさせずに済む。ただ、先に挙げたように、かのマンガを知らない者にとっては、少々読み辛いところがあるのも確かである。しかし、こうしたマンガについても、学術的叙述の題材として当然とられて構わないわけだし、時代の思想や動きを読むのに、大きな意味を持つものとして捉えなければならないことは、考えてみれば当然である。
 どんな価値観がもたれているのか。そこに潜むものを表すものとしての、マンガなのである。
 いや、話が一向に本論に入れない。フェミニズムを男が論じるのではなく、男の新たなライフスタイルを正直に受け止めて、妙に過去の幻想にこだわり続けている一部の男性信者の影響の及ばない時代への船出を飾るような、時代の読み解きがここにある。
 私個人からすれば、同調できる部分が少なくない。というより、私がすでにとっている生活スタイルが、重なる部分も多いのである。私は普通の世の中からすれば明らかにずれているが、どうやらまんざらでもないようだぞ、という気分に、読んでいるとなってくる。
 著者の専門の一つである、宗教学も含めての議論は、難しいところもあるが、私には読みやすい部分が多かった。著者の魂の中には、自分はなぜオウムには加わらなかったのか、という問いが、重いものとして響いている。加わってもおかしくはなかったのではないか、という意識である。
 これでは、一体この本に何が書いてあるのかは分かりにくいことだろう。興味をもたれた方は、実際に本編に触れてみるとよろしいのではないか。肯けるものが感じられたら、たぶん一気に最後まで読み進めるであろうし、そうでなければ、風変わりな本だ、と視野の外に置くだけのものであろう。
 さほど嫌味なく読めるものではあると思う。




Takapan
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