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『オノマトペの謎』

ホンとの本

『オノマトペの謎』
窪薗晴夫編
岩波科学ライブラリー261
\1500+
2017.5.

 この問題についてちゃんとした研究、あるいはちょっと楽しく聞かせてくれる論文を期待していた。その点、ありがとうと言いたい本書は、副題が「ピカチュウからモフモフまで」と、興味をそそる題材を掲げている点、期待をさせてくれる。もちろん、中はたんなる啓蒙書ではないと思う。かなり調査や考察を厚く重ねた研究の成果であり、学術的であると言える。だが、この期待を裏切ることなく、十分楽しませてくれたと私は思っている。
 本書には、8人の研究が明かされている。どれも面白かった。タイトルは堅くなく、読者の関心を呼ぶような、これまた楽しい呼びかけとなっている。まさに、オノマトペという言葉を扱う研究であるためか、言葉で誘うのがうまい。
 こうした指摘ははっとさせられる。「か」がつくと堅い印象があるとか、「ぱ」にはぴんと張ったものというイメージがあるとか、言われてみるとなるほどである。本書ではこれがk,pのような子音からきちんと説明されているので、どうぞ本文を楽しんで戴きたい。
 また「きんきん」が、冷えた飲料を表すように変化したのはいつごろからなのか、新聞記事を検索することで明らかにするなど、現代的な調査を交え、考察は進んでいく。方言的な違いはあるのかという調査では、福岡に住む私には、どうなんだろうという結果もあったが、時代は標準語化しているので、私自身、元から標準語で馴染んでいるということはありうることだろう。しかし、地図の上でそう簡単に決められないという印象はある。言葉は長い間の地域の交わりや政情からも影響があり変化がある。ただ、外国語にもオノマトペがあるのかという点は、もちろんその外国においても標準語なり方言なりがあるだろうと思われるが、言語により豊かなものもあれば、英語のように動詞でオノマトペを表すということをはっきり示されると、文化の違いというものをひしひしと感じざるをえない。
 ともすれば、幼い言葉としてオノマトペは捉えられるかもしれない。赤ちゃん言葉はまさにそうであろう。だが、言葉を豊かにすること、また共通感覚を育むことなど、日本語の中でオノマトペは軽く扱うことができないものを有している。知らず識らずのうちに、それを了解することで、一定の文化の中に収まっていくのだということも感じる。また、最後に、新たなオノマトペは可能なのかと問いかけているが、これがタイトルの、ピカチュウというキャラクターの設定にもなるし、モフモフという、近年とみに用いられ了解され始めた言葉の分析にもつながっていく。日本語は、こうして新たなオノマトペへの道を拓いていることは間違いない。ネット用語には今日もそれが現れているのだろう。
 私個人としては、「長音+短音」のリズムの指摘は、つくづくそうだなぁと思わされた。日本語に自然であるのは、この順序なのだ。「詩歌」は「しか」であるはずなのに「しいか」と発音する。落ち着くリズムが正当とされるのだ。だとすれば、不安定な語を生み出そうと意図的に「短音+長音」を考えるのも一策であることになろう。分析というのは、言葉に対する私たちの感覚を、意識的なもので構成できるようにしてくれる。そのあたり、やはり研究者というのはありがたいものだと感じる。
 直接オノマトペに関心がない人でも、なにかしら連想的にでも感じて得るところの多い本ではないだろうか。




Takapan
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