本

『面白いほどよくわかる哲学・思想のすべて』

ホンとの本

『面白いほどよくわかる哲学・思想のすべて』
湯浅赳男
日本文芸社
\1470
2008.5

 シリーズとしてよく書店に置いてある。気軽にその方面の知識が得られるという意味では、重宝すると言ってよい。とにかく気になるが知らないことについて、ある程度の知識が欲しいということはよくあるわけで、そのようなときに、その道を究めようとする人のための立派な入門書である必要はないし、かといって興味本位の週刊誌のようなあたり方では満足できない、ということがある。そういう時の味方がこのシリーズだ。
 概して見開きで説明と、パワーポイント張りの説明とが並べられていてすっきりした構成のものが多いのだが、この本は違う。一定のまとまりがつくまで、文章による説明が続くようなことがある。それでも、ひどく退屈はしない。必要な用語や概念は、ゴシック体で示してあるので、とりあえず何か頭に入れておきたいときには、そこだけ拾っていっても有用である。
 ともかくそこそこ便利な本だと言える。
 著者は、サラリーマン出身の人。私は先入観なしに本だけぱらぱらと追っていって、それで著者のイメージがだいたいできてきていた。案の定、経済史などの専攻であった。哲学の専門家でないことは、すぐに分かった。
 本そのものは、インド哲学や中国哲学もそこそこ紹介していて、西洋哲学一辺倒に比べると公平かもしれない、とは思ったが、如何せん、ここに紹介してあるのは、高校の倫理の教科書そっくりである。いや、それでいいという考え方もあるが、それならば、もう少し形而上学に説明を割いてもいい。だが、それが殆どない。その後の書きぶりを見ても、明らかに、経済や経営への関心が深く、ビジネスの世界に少しばかり高校倫理で学んだ世界の思想を交えようという程度の編集である。
 哲学についていやしくもいくらかのことを解説しようとしたときに、カントをこれほど無視した扱いはできないと思うし、そのカントについて触れたところも、ヘーゲルの前座として扱っているに過ぎない。そしてヘーゲル以降のグループの分裂あたりにこだわるところを見ると、経済関係だとますます露わになり、ついに、マルクス主義や共産主義について、論理以前の、聞くに堪えない悪口が続くようになると、著者の程度がもう分かってきた。それはそれは、子どもじみた罵りなのである。しかも、もう世界史的には一応勝負のついているこのマルクス主義思想に対して、とことん罵声を浴びせるとなると、ダウンしたボクサーの上にのっかって殴り続けているような空しさをむしろ感じてしまう。
 そういうわけで、哲学などについて基本知識を得たい場合には、よく注意をして戴きたい一冊である。共産主義を罵倒するのに喜びを感じるビジネスマンには、よいかもしれない。が、少なくとも、表紙にサブタイトルのように並べられている、「人類が共有する「知」の絶対真理を読み解く」などというのは、安っぽい週刊誌程度の編集でしかないことを見事に露呈していることくらい、誰しも見抜いて戴きたいと思う。
 シリーズのモットーであろうか、「学校で教えない教科書」と表紙の左上に記してあるが、学校で教えられないのか、または学校で教えてはならないのか、のどちらかであろう。




Takapan
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