本

『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』

ホンとの本

『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』
アリソン・アトリー
すがはらひろくに訳・やまわきゆりこ画
福音館書店
\1365
2012.2.

 まず可愛い絵の表紙に目が惹かれる。どこかで見たようだ、と思ったら、ぐりとぐらやいやいやえんのやまわきゆりこさんだ。洗練されていないのだが、しぐさや表情に実に味がある。子どもならずとも、ここにはこの絵しかない、と思わせるようなしっくりさをもたらしていることを感じる。
 それはそうと、お話がまた魅力的である。書き出しからして、ぐいぐいと引きこまれるものがある。4匹のこぶたのきょうだいがいる。「いちばん小さくておめでたいサム」と書かれている、たぶん一番弟のサムくんが、もっぱら活躍する。原典ではそういう扱いになっているようだ。そのことを、本のタイトルも示している。「おめでたこぶた」とは、このサムくんのことなのだ。
 彼らは、アナグマのブロックさんと暮らしている。この大人のブロックさんは、こぶたたちに知恵を与え、助けを与える。が、活躍するのはやはりこぶたたちだ。サムくんは、いろいろ子どもらしい不満ももち、ひょいと家出さえしてしまう。そうして危ない目に遭ったり、不思議なキャラクターと出会ったりして、ひと騒動を起こすのだ。
 こうしたお話が、この「その1」には6つ集められている。元のシリーズの中から、訳者が選んでこの一冊を送り出してくれた。もとよりこれらは独立した短いお話の集まりであるから、そのあたりは自由だ。ピーターラビットのように、ひとつひとつの絵本のように見ていけばよいだけのことだ。
 作者は、19世紀イギリス生まれの女声。そういう意味では、まさにピーターラビットのような空気を醸し出す。グレイ・ラビットというシリーズも生み出している人である。90歳以上長生きされた方で、農場での暮らしの経験を、描写に生かしている点も見逃せない。
 そう、私はこの童話を読んでいるうちに、この訳者のすばらしさに敬服せざるをえなかった。自然の描写が巧みで、たくさんの固有名詞と、その「なり」について、細かな知識と体験がなければおよそ訳すこともできまいと思われるような叙述なのだ。とにかく森の中にいるこぶたたちは、作者の分身でもあるのだろうが、出会うものふれるもの、使うものが悉く自然のものを生活感溢れる情景の中で扱うばかりなのだ。少なくとも私のような英語では壊滅的に不可能だ。それが、日本のどの子どもにも分かるように、こなれた言葉で伝えられている。見事だ。
 しかし、作品そのものとして、とにかくこのサムくんが、かわいい。文句なしに、かわいい。そして、大人としての私も、読みながら、このサムくんその他のキャラクターと共に、どきどきはらはらしながら、次の場面を求めていく。そして頁をめくると、そこには飄々としたイラストがあり、場面を的確に描いている。ポターのように精密な絵でリアルに描くのとは違い、不器用な線書きのイラストが日本において添えられているのだが、まさにぴったりと思うから不思議だ。
 これはシリーズとなっている。続きも今出ている最中のようだから、これからが楽しみである。地味だが、これはいける。お子様にどうぞ。そして、大人も、何か心が優しくなる。善とか悪とか、そんなこととは別に、心が明るくなる、魔法をかけてもらえる本である。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります