本

『修学旅行のための 沖縄案内』

ホンとの本

『修学旅行のための 沖縄案内』
大城将保・目崎茂和
高文研
\1155
2006.11

 学生向けに書かれたとはいえ、おとなが読んで勉強になることこの上ない。
 沖縄県知事選挙の背景に何があったのか、そんな時事問題的な理解も得られる。とにかく、中学生や高校生に向けて書かれたものである。大人が読めば分かりやすいはずである。
 しかし、多分に知らないことばかりが書かれていると感じるのではないか。リゾート地だとか、珊瑚礁の海をぷかぷか、せいぜい最近沖縄出身の歌手が多いとか、ゴーヤーの産地だとか、その程度の理解しかしないのが通常であろうからる
 沖縄の自然と歴史、沖縄戦から基地問題へと解説は続く。恐ろしいほどの事柄にさえ、淡々と語るにとどめられているが、それが却って恐ろしさや憤りを呼び起こす、という読み方は、さて中高生に生まれてくるであろうか。
 修学旅行といえば、わずか数日、ともすれば2泊程度の旅である。そのような短い旅ではあるが、生徒は基本的に、現地について学習や調査を済ませた上で訪れる。そこにターゲットを絞ったというのは、案外よい本の作り方であるかもしれない。密度の濃い予備知識を得てから出かけるわけだから、生徒たちにとって、印象に残りやすいものではないかと思う。
 沖縄という印象が、がらりと変わることだろう。それでいいと思う。
 かくいう私は、沖縄に新婚旅行に行った。そこで、戦跡を訪ねた。私はしばらくの間、現地で買い求めた資料などから、沖縄戦の背景について執筆したことがある。自身、「沖縄病」にかかったと称していた。沖縄戦を知らずして、戦争に対して意見を言うことすらできない、と感じた。さらに、その沖縄戦の一部で、証言に嘘があったということを、例の新聞が鬼の首を取ったように高らかに嗤いつつ掲げていることを、寒々とした気持ちで見ざるをえない。
 ひめゆり部隊の説明をあくびをもって聞き、それを入試問題にまで用いた教師もいたが、いったい何をしに沖縄まで来たというのか。
 いや、他人の命を何とも感じない人が増えてきている中で、当人だけを責めても仕方がない。
 修学旅行という偶然を通じて沖縄に目を向けたそのときに、確実に、沖縄の意味を伝えようとするこのような本が、もっと活用されてほしいと願うばかりである。




Takapan
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