本

『おいしい父親の作り方・かしこい子どもの育て方』

ホンとの本

『おいしい父親の作り方・かしこい子どもの育て方』
川島隆太
学習研究社
\1,200
2003.10

 父親も子育てに関わるべきであるという声に、反対するつもりはない。しかし、本人も覚悟して、あとがきに語っている。「この本は結局、男尊女卑の考えで書いているだけじゃないか」との批判を想定しながら。
 この本は、男は外へ出て働け、女は子育てを司り、その場に夫をうまく取り込めたら成功だと述べている。脳機能の解明を図る大学教授の意見にことさらに反抗するつもりはないが、脳そのものに男女差があるのだと説明することは、にわかには信じがたいものがあるだろう。
 男として、女として生まれてしまったものはそれはそれでいい。それがある程度の傾向をもっているかもしれないことを、ことさらに否定することはできないかもしれない。しかし、むしろそこから、次のステップへ向けて歩むようでありたい。
 脳の機能からして、女性は仕事をするのでなく子育てをしろという考えは、ある種の科学的成果を述べていることになるだろうが、はたしてそれを主張して広めてよいものであるかどうかには、疑問が残る。そこには一定の意図が加わっていると考えられても仕方がない。あるいは、著者自身気づいていない意図が。つまり、自分でも覚悟しているように、女性はこういうものだからこういうふうにするべきだ、という枠づけである。女性が自ら、女性はこうありたいと願うのならまだしも、男性が女性の性格を決めつけるような記述には、問題が残らないだろうか。恰も、○○の国の人はこういう性格だからこうあるべきだ、と他の国の人間が決めつけるかのように。
 また、この著者は、自分の子育てが成功したという話を時折持ち出す。自分は父親としてこんなに立派にしたために子どもがこのように立派に育った、というふうに聞こえる。母親の声がそこには聞こえてこないのも気になるが、それよりもまず第一に、自分にとって成功したという自信あふれた話を聞くのは、他人にとっては面白くないものである。あなたはそれでよかったが、別の状況にある家庭では別の仕方がある、と刃向かいたくなる人がいることだろう。
 男が赤ちゃんを見て、どう扱ってよいのか分からず恐れている、などの指摘は、案外新鮮かもしれない。夫が理解してくれない、と子育てに悩む女性の一部には、なるほどと思えるような内容も数多い。したがって、夫に子育てを手伝わせるにはどうすればよいか、というノウハウを提供しているのだとするなら、この本は実に重宝である。しかし、それが、脳の構造に男女差があるからそうなのだ、ということを強調するとによって、事態は変わってくる。それは著者の主張に根拠を与えるはずのものなのであるが、また別の根拠づけに利用される危険をもっている。つまり、政治的にである。忠君愛国や教育勅語への懐古の心を、自分のライフワークとして実現にもたらしたい政治家がまだ多い。彼らにとり、科学的な根拠はますます都合の良い存在となる。それが科学的という名をもつだけで。社会は男が作るものだと息巻いている新聞社もあるくらいなのだから。
 少子化問題を超えようとするためには、子育てをバックアップする企画として、この本は美しい話題を提供している。その際、子どもというのは、生まれてすぐからティーンエイジャーになる寸前まで、説明を網羅している。つまるところ、父親として何ができるかという点で、男性の眼差しを子どもに向ける役割を果たすのなら、それで十分であった。
 厳しいことばかり記したが、父親へのメッセージやノウハウとしては、おおむね安心して読んでいられる内容が記されてた。あまり脳機能の話に洗脳されなければ、うまく利用可能なハウツー本だといえよう。




Takapan
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