本

『老いる自分をゆるしてあげる。』

ホンとの本

『老いる自分をゆるしてあげる。』
上大岡トメ
幻冬舎
\1200+
2019.7.

 コミックエッセイというものだろうか。全編マンガ形式で、タイトルのテーマでストーリー仕立てにしながら、「老い」とは何であるのかを説明し、またそれを受け容れていく過程を表現している。作者が辿った経験を、およそそのまま示しているものと思われるが、幾人かの著作や発言などを参考にしながら、それをよく学び、まとめているものだといえよう。
 著者が48歳のとき、喘息と診断される。ここから人生観が変わる。物語はここからスタートする。ネットから、50歳というあたりで健康観が変わっていく人々の姿が分かり、そこに疑問をもつ主人公であったが、そこへ突然現れたのが、アンと呼んでくれという81歳の女性。その家へ招かれ、教授を受ける、という展開である。
 そもそも人間の寿命が生物一般からすると如何に例外的かというあたりから始まり、細胞レベルから言えることを学ぶ。その後、骨の老化についての理解へと進み、筋肉のことも知り、筋肉をソフトでよいから使い続けることの意味を知る。また、感情面の変化もあることを鑑みて、ココロとカラダとの健全な関係を目指すことの大切さを結論づけるという具合である。
 漫画家というよりはイラストレーターである著者のコマは、とぼけたタッチで、親しみやすく問題に接することができるように導いてくれる。説明もシンプルな絵と解説で分かりやすい。
 学者の監修というよりは、あくまでも作者が学んだことを記しているのではあるが、こうした内容については、一定の正確さが要求されるものでもあるため、きちんと医師に向き合って取材をしている。その先生方をもストーリーに参加させることで説得力を増すことになるのだが、それだけに、内容的には医師たちも責任を担うことになるだろう。それは学者や大学教授といった具合だが、お名前だけを並べると、近藤祥司・桜木晃彦・田中尚喜・池谷裕二・木村容子といった方々である。その意味でも、ただ「お勉強しました」のレポートではなく、読者にそれなりの知識を提供することを目的としているのだとも言えるだろう。
 思えば、このような類のコミックスも時折見られ、私は歓迎する者である。何よりも、手に取りやすい。そして、概略を知ることができる。もちろん、多くの人にとっては、この一冊で十分であろうし、中に紹介されている運動のアドバイスや軽い体操などを実践することで、明るく生活していくことができればそれで満足というところであろう。知ることは力である。無知よりは安心を得ることができる。なにより、心に残りやすい。そして、次のステップに進む人も現れやすいに違いない。本書の、とくにここに興味をもった、だからその方面の、もう少し深い解説書を手に取ってみようという具合である。そのときには、いくらかでも基礎知識が養われているから、説明されていることも幾分分かりやすくなるはずである。その効果はやはり大きい。ほんの聞きかじり程度でもよいから、何かしら基礎知識の基盤に触れていると、その領域の説明が分かりやすくなるのである。
 その世界に招くには、このような営みが役立つはずである。キリスト教会についても、もっと入りやすい入口を提供することを、もっと正面から考えてよいような気がする。滅びに至る門は広い、などというが、このようなことを禁じる意味で言っているのではないだろう。「老化」への関心が一定以上の人々にきっとあるものだとすれば、キリスト教が説く人生の問題も、触れてみたいと思う人が少なくないわけで、このような入口の広場があればよいが、と思うものである。
 細胞の老化は避けられないが、それをいくらかでも遅らせる方策があるのならば、私たちの出会う社会的な危機も、遅らせるものがあるのではないか、という示唆をも得られた気がするが、それは本書の領域を超えるものであろうか。ただ、タイトルの「ゆるしてあげる」がなかなかいい。この感覚は、拍手ものではないだろうか。このセンスを見習いたい。




Takapan
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