本

『お〜い父親Part2 夫婦篇』

ホンとの本

『お〜い父親Part2 夫婦篇』
汐見稔幸
大月書店
\1,200
2003.9

 私などは、大月書店という会社名を見ただけで身構えてしまうのであるが、この本については、たしかにその出版社の気に入るような話題ではあるにしても、ことさらに意識する必要はなかったのではないかという気がしている。毎日新聞に週一で約三年間連載されていた記事を、2冊に分けた形でまとめて出版したものだという。Part1の「子育て篇」を私は寡聞にして知らないため、今回読んだPart2の「夫婦篇」に限ってご紹介しようと思う。
 この夫婦篇からは、執筆当時にして50歳を超えた著者が、どういう子育てを具体的にしたのか、あまり見えてこない。どちらかというと、世間での出来事を反映させたうえで、一般論を展開しようとしている。それでいて、いろいろな子育てがあってよいという観点も守られており、それはそれでよいと思う。
 著者は、東大で教育学を語る教授である。それでも、これは新聞のコラムでもあるわけだから、気取っていることもないし、衒学的でもない。それどころか、新聞が出された後で反論などの反応があったとき、翌週に律儀にその反論に応えようとしているところが、誠実さを伝える。
 その立場は、中庸とでも言うべきで、ことさらに極論に走ることはない。また、反対論者の揚げ足を捉えて鬼の首を取ったような気分になることもない。逆に産経抄のコラムは、極論が好きで、相手の揚げ足を掴まえるのが好きである。傍目には、その足は意図する論敵の足ではなく、論敵の側から外れた不純分子の足であるように思えてならないのだが……。
 この本に戻ろう。いわゆるジェンダー問題も、この人はそれを極端に推進するつもりはないが、むやみにそれを否定する動きにも加われない。むしろ、その男女共同参画の理念を守る意味で、ジェンダーフリーの考え方に賛同しているように見える。もちろん、今すぐにそれがどうなるという意味ではなく、歴史の流れとしてそうなるという見方である。
 それは何故だか、私には分かるような気がする。それは、著者が教育学者だからである。子どもの教育という問題を抱えて試行錯誤しながら思索し行動している著者であるからこそ、子どもの未来ということのためには、子どもを守る立場の父親が、子育てをがっちりガードしていかなければならないと考えているのである。教育学者だから、子どもの教育や成長といった問題を解決することができそうな立場へ賛同していくのだ。
 私はこの本の終わりのほうにある「ある男性園長の話」に、一つの象徴があるように感じた。
 年老いた前園長である母親から頼まれて、保育園を任された息子。彼は政府の役人をしており、教育に関しては素人だったが、定年も近いということで引き受けた。子どもの置かれた現実を肌で感じていくうちに、小さなことのように見えた問題が、実は大きな問題を含んでいることに、次第に気づかされていく。生活上のちまちまとした問題を日々見つめている保育士と母親たちの会話の中に、ここにこそ、日本の抱える真の問題がある、と彼は悟った。役人時代、高所に立って数字で社会をコントロールしていた。そしてコントロールできるものと思って憚らなかった。しかし、数字で見えないところに日本の真の姿があったことが分かる。彼は保育のことを学び、園の設計もやり直した。そして余生をかけるに相応しい課題が与えられたと喜んでいるという。
「人を育てるという営みの中にこそ、文化も政治も経済も真価が問われるのだ」と、著者は語っている。
 前半に多く記された、夫婦間が如何に協力し合うのか、などの項目も示唆が深いが、私はむしろ後半の、ジェンダーとの関係や、社会の中で男がどう子育てをするスタンスを得るかの話が直接的に面白かった。というのはもしかすると、子育てに関しては現在進行形であり、自ら子どもの世話をしてきているがゆえに、子育ての実際や妻との関係についても、経験的に分かっていることだから、とも言えるだろう。
 軽く読め、分かりやすい。それでいて、難しい問題であり、心に重くのしかかってくる。そんな本である。




Takapan
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