本

『黄金比』

ホンとの本

『黄金比』
スコット・オルセン
藤田優里子訳
創元社
\1260
2009.11

 小さな、薄い本である。しかし、表紙のタイトル文字が光っている。ゴージャスな印象を与える。だってタイトルが「黄金比」なのであるから。サブタイトルには「自然と芸術にひそむもっとも不思議な数の話」とある。
 たとえばπの話をまとめた本がある。延々とその本はπにこだわり、紹介する。いろいろな顔をもつ数であるが、その神秘性や歴史的な逸話など、一冊の本にするに十分な内容が備わっている。ではこの黄金比とは何か。少しばかり数学のものの本を見たことがある人は、基本的な知識をもっているであろう。また、中学三年生の数学の授業で、取り上げる学校の先生がいらっしゃるかもしれない。近年その余裕もないかもしれないが。
 つまり、xの二乗の係数は+1だが、xの係数が-1で、定数項も-1である二次方程式の正の解がそれである。AやBといった紙の縦横の比がこの数を規格にもっているし、正五角形とその対角線からなる図形において、この比が顔を出しているということなどが、授業で語られるかもしれない。というのは、私がそうしているからだ。これは、古来絵画の中に利用されていると言われるし、今では名刺のサイズにも活かされている。
 少しばかり関心をもつ中学生には、フィボナッチ数列の話をすると、これと結びついて面白いが、極限という考えを有しない中学生では、そのくらいの話で十分終わりとなる。このように、数学の授業の中で展開できるエピソードがある、この黄金比である。
 しかしそれは、その程度では終わらない内容をもつ。それの理解のために高度な数学を必要とするのであれば、素人には縁遠いただの学者の趣味ということになるのだろうが、そこへ比例式からプラトン、植物の葉のつきかたや人体の中にある黄金比などの話題を次々と見せてくれると、読者も厭きる暇がない。だんだん記述は歴史的な内容になり、最後は実に神秘的な思いを読者に抱かせて終わっていく。
 ひとつひとつの記述は少ない量である。右側の頁はたんにイメージだけをつくるために置かれているようなこともあるが、実は左頁の内容にまつわる資料であったり、説明であったりする。見開きで一つのまとまりをつくる、最近よくあるパターンであるが、表紙でもそう紹介したように、これは中身がゴージャスである。πとはまた違った意味で興味深く読み進むことができるものである。資料などはその白黒印刷である点を考慮しなくても、なかなかアナクロニズムを感じさせるものである。アンティークな趣味は十分満たされるであろう。
 まともに読んで隅々まで理解しようとする読者ならば、一定の数学的知識が必要であろう。だが、これはどこか神秘思想のエピソードを垣間見るような思いで読んでいくことができる本でもある。自然のもたらす黄金比の例もいろいろ紹介されている。まさに自然は神の描いた作品だというのも尤もである。
 本のデザインとしても優れたものを見せてもらったような気がする。




Takapan
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