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『現代聖書講座 第2巻 聖書学の方法と諸問題』

ホンとの本

『現代聖書講座 第2巻 聖書学の方法と諸問題』
木田献一・荒井献監修
木幡藤子・青野太潮編集
日本基督教団出版局
\5800+
1996.10.

 聖書解釈の方法についての雑誌の記事に推薦されていたので、入手した。かつての価格はなかなかのものだが、古書としてはまだ買いやすいものと理解した。しかしきれいな本だったので、到着してから驚いた。
 もう20年も前の本となってしまった状態で読んだわけである。確かに、現代はさらに変化した部分もないわけではない。しかし、概ねこれだけのことを押さえておけば、新たな傾向を知るには十分であると思われた。
 まずは旧約聖書学。文献としてそれを見ていくためには、いくつかの観点がありうるのだが、それらを一つひとつ取り上げて解説する。筆者には筆者の意見があるのだが、できるだけ客観的に、何がどうであるのか、またこれまでどうであったのか、それを読者に教えてくれる意図を感じた。日ごろ意識しないであろうような、イスラエルの法整備についての見解は、フレッシュな気がした。欧米の研究がどのようであるのか、についても流れが示されており、読者が関心さえもてば、また世界を拡げることができるように配慮されていることを強く感じた。
 信仰という点で見るならば、必ずしも需要を満たすものではないだろう。あくまでも、聖書学である。聖書を文献として読み、またその意義を捉えるための資料として信頼のおける事実を調べようとするものである。信仰を強くするものではないかもしれないが、信仰を支える重要な学問研究の成果がここにあるし、それをどうやって生み出しているかについての背景を教えてくれる。暴露話というわけではないが、実際まだ分かっていないところなどが書かれてあると、一般信徒も、聖書のどこをどのように読めばよいのか、ヒントになることがあるだろう。ただ、もちろんこの書は、信徒であれば誰でも読むに相応しいとは思えない。聖書を説き明かすためには欠かせないが故に、やはり聖書を何らかの形で教えるという立場の人が望ましい。しかし、遠慮することはない。聖書からの恵みを受けるために、聖書の深いところを垣間見るつもりであるならば、いくらでも役立てられるであろう。尤も、聖書の中の冷静な叙述が、信仰者として気に入るかどうかは分からない。そのあたり、弁えて対したいとは思う。
 新約聖書についても同様であるが、ここでは若干筆者の解釈が先行する記事もある。それでも、Q文書についてのひととおりの解説は、これだけの短いスペースの中でよくぞ説明してくれたというような、効果的な叙述であったのではないかと思われる。もちろん、Q文書自体、仮説に過ぎないので、それが恰も当然のことのようにこのように存在していた、というような言い方に受け取られる点は否めず、読者としても一定の知識をもち、対処できるだけのゆとりをもっていることが肝要であろう。また、パウロの年表が整理されているのは資料としてありがたいし、後期資料もここまでコンパクトに整理されているものは珍しい。そのようにして見ると、この一冊を置いておけば、何か現代的な課題を調べようとした時も含めて、聖書の解釈のための学びにおいて、役立つことは請け合いである。
 またそのうちに、これの新しいバージョンが出版されることだろうと思うが、当面、まだこれは活躍できそうである。しかし、この日本のクリスチャンの少なさからして、これだけの内容の本をよくぞ発行してくれたものだと考えたい。価格が安くならないのは仕方がないが、出版するだけでもありがたいものだと理解しておいてよいだろうか。




Takapan
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