『名場面でわかる 刺さる小説の技術』
三宅香帆
中央公論新社
\1700+
2023.5.
書評家、という肩書きもあるが、本好きな、読書のリーダーとして人気の著者だと見てよいだろうか。
多くの小説の場面をピックアップして、それに対する著者の観点を明らかにしてゆく構成となっている。小説を批判するような言い方は全くない。小説の、よいところをとにかく読者に見せるというサービスに徹している。それがよいと思う。
そして、ポリシーも最初からはっきり伝わる。というより、タイトルからしてそれは明らかである。小説の命は「場面」であるのだ、という。ストーリーの途中には、だるいところがあるかもしれない。もったいぶった書き方で読者をじらすかもしれない。だが、ひとつ、際立つ場面があって、それに驚き、それが読者の心に残るならば、それは間違いなく、読んでよかった小説なのである。このスタンスから、さてどういう場面がそれに値するのだろうか、ということを例示してゆくのである。
これは、小説を読む人の楽しみにもなるが、ターゲットは「書く人」であることが、最初から宣言されている。連載記事をまとめているため、読む側も区切って読んでゆくことができ、気持ちがいい。最初の方に「講義」というコーナーがあるから、そこの基本線さえ理解しておけば、具体的な場面の紹介は自由に選んで読んでいってよい、ともいう。
そして、先に挙げたエッセンスとしては、「名場面さえあれば、その小説はもう、勝ったも同然なのに!」ということを突きつけてから、始まる。
そうした場面は、幾つかのカテゴリーに分けて知っておくとよいことになる。それは「ライバル」であったり、「友情」であったりする。もちろん「恋愛」もそうだが、たとえばこの「恋愛」についてだったら、「核心をついた会話の応酬」という観点を提供し、事例を出す。「師弟」であれば、「距離の隔たりを書く」というように、それぞれのテーマにおいても、ある程度具体的な有様を示すのが、とても親切であると思う。
このようにして、「家族」「動物との関係」といった関係性についてまとめてゆくと、その後、「関係性の変化」について、たとえば「出会い」から「回想」「孤独」など、なるほどと思えるような「場面」が紹介される。
その後「場面設定」を、「学校」や「職場」など、具体的なシチュエーションから、それぞれを描く注意点なども交えながら挙げてゆくので、これまた親切なことこの上ない。
最後は「イベント」の様々な姿を提供して閉じるのだが、読後感も爽やかであるのは、やはり「よいところ」が連なっているからだろうと思われる。
自分のもつ小説のテクニックを伝授しよう、などという動機から、このような本を出す作家もいることだろう。それはそれで、プロの秘密を明かしてくれるのでありがたい。だが、本書はそういうタイプではない。たぶん純粋に、小説が好きなのだ。その辺りのことを最後にお伝えするために、「あとがき」の最初のところを引用したい。「私は小説を読むのが好きなので、この世にひとつでも好きな小説が増えたらいいな、と日ごろから思っております。/好きな小説家がひとりでも増えたら嬉しいし、自分好みの小説を短い人生でいかに見つけていくかを何より大切にしています。」そして、その主張は、恐らく次のところに本音をもつように書かれている。「あなたの作品を読みたがっている人はここにいるんらだ! という実感を、本書から得てもらえたら嬉しいです。そう、私はあなたの文章を読みたくて、この本を書いたのですよ! あれこれわがまま言いましたが、それはひとえにあなたの文章が読みたいからなんです!」
この「あとがき」の最後は、祈りのような言葉で結ばれている。「本書があなたの書く力になりますように。/私は、あなたの書いたものを読めることを、心から楽しみにしています。」

た
か
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