本

『脳のなんでも小事典』

ホンとの本

『脳のなんでも小事典』
川島隆太・泰羅雅登・中村克樹
技術評論社
\1764
2004.4

 ハウツー的で、少なくとも学術的には見えない。一般受けするためによく分からないままに編集部が勝手にまとめてしまったような本も見受けられる中、今回なかなか骨のある本に出会った。大学教授である著者が、自ら「あなどれない一冊」と呼んだのである。
 たしかに、専門的な難しい記述が並んでいるわけではない。他方、俗的に奇妙な実例ばかり並べて人の気を引こうとしているわけでもない。ときにかなり読むのに骨の折れる部分もある。学術的に解決していないことは、まだよく分かっていない、と明記している。分からない、という告白こそ、信用の第一の扉である。知らないと言えないばかりに嘘をついて引きずって、それがとんでもない悪影響を与えることがあるからだ。
 おそらく、著者たちは、これ以上はないというほどに、脳科学を軟らかくかいつまんで、このような本としてまとめている。図解も多いし、卑近な例も数知れない。昔からの格言とともに、その正しさを引き継いでいるようなところもある。
 だが、案外にそれはレベルが高いのではなかろうか。誰にでも分かるように優しく記述することは、たまらなく難しい。
 たとえば、歴史的な実験というのがある。今はわざわざそのようなことをするまでもなく分かってはいるのだが、科学史のターニングポイントになるような出来事は、要注意なのである。
 私個人としては、赤ちゃんが、無地よりは縞模様などが好きだというところにちょっと張りついてしまった。金縛りについての説明も少しだけれどそこにある。ドッペルゲンガー、すなわち自分自身の分身を見た者は、数日内に死ぬ、と言い伝えられている。神秘的な言い伝えだが、脳科学で説明できることは、わずかでも触れるようにしているような本の編集が、とても楽しい。
 とにかくあらゆる角度から、あらゆるケースの資料に遭遇するような、脳についての学習を得た。脳はまた、自分自身、自分とは何かといったことへも思いを馳せる課題である。養老さんのブームもさることながら、私たちがいろいろ考えてみたいことが満載の一冊である。




Takapan
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