本

『大学ノートテイク入門』

ホンとの本

『大学ノートテイク入門』
吉川あゆみ・太田晴康・広田典子・白澤麻弓
人間社
\999
2001.3.

 ノートテイクと聞いても、ポピュラーでない故に意味が伝わりにくいことだろうかと思う。この本は、関東学生情報保障者派遣委員会の編集協力により作られている。また、タイトルには冠として、「聴覚障害学生をサポートする」とも記されている。これで推測しやすくなろうかと思う。
 この場合、大学における、ということであるが、講義をノートしてくれるボランティアについて紹介されている本であるのだ。ただ、何も難聴者や聴覚障害者の代わりにノートをとって届けてあげる、などのようなものではない。その学生の隣にいて、「聞こえる」ことを伝えるために、文字を使って筆記するということである。まさに、バリアをなくすということであるから、その講義をただノートにまとめればよい、というものではなく、教室で物音がしてそれが何によるものかを伝えるというところまで、筆記という手段で行うのだという。
 聴覚障害者のすべてが、手話を使うわけではないことも、この本からはよく分かる。様々なタイプがあることや、何が苦痛で何を助けてもらいたいのか、そういうことも、まさに自身の声として明らかにされているから、この本は、たとえノートテイクをするのでない人が読んでも、十分、理解の礎となりうるものであると信ずる。互いに理解することが必要なのであって、決して、弱い人を助けましょうなどというものでもないし、またやるからには責任をもって必要なことができるように進めて行きたいものである。いいことをしてやっているんだ、のような態度は全く埒外のものであるに違いない。
 また、単にノートテイクをする側の聴者のために記した本である、とも言えない。同時にノートテイクをしてもらう側の心理や、どうやって頼むかなどの実際的な事柄について、十分な説明が施されている。つまり、この本は、聴覚障害者と聴者とを結ぶ役割を果たしているのだ。その方針が、熱く伝わってくる。実に誠意を感じるのだ。
 双方について、メンタルなことへの様々な注意点を教えてくれるし、実際にどういうノートがよいのか、見本をも多く掲載してくれるなど、行き届いた編集となっているように見える。もちろん、どうしてほしいかということについては、個人差がある。そしてそういう点にも十分な理解をした上で、具体的にどうすればよいかが明らかにされているのである。
 実際にノートテイクという場面のためには、ぜひ活用して戴きたい本となった。また、一般に聴覚障害者のためにどう理解すればよいのか、という点についても、たくさんのことを知らせてくれるであろうから、読むことは有益である。
 教会には、お年寄りで難聴になった方がいる。手話通訳があるとしても、この方々にはそれでは通じない。説教も事実何も聞こえないままに、礼拝時間を過ごしていらっしゃるわけである。補聴器がある、とは言え、内耳に問題があればそれは殆ど役立たない。
 私は気づいた。ノートテイクができるのではないか、と。
 説教内容を、筆記して伝える。
 大学とはまた違う雰囲気ではあるにしても、話を伝えるという点では似たものがある。このノートテイク、ほかにも様々な場面で応用可能なものである。どだい、街の店舗でも、どうコミュニケーションをとるかということで、こうした心得はいくらあっても損にはならないはずである。
 多くの人に、こういうことが必要な学生がいることを、知ってほしいものだと切に思う。




Takapan
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