『進化しすぎた脳』
池谷裕二
朝日出版社
\1575
2004.10
最先端の脳科学を披露してくれる本。しかも、分かりやすい。
中高生を相手に、語った場の雰囲気をそのままに活字に定めたような編集である。つまり、中高生に分かりやすく説明したものである。
とはいえ、後半は、化学や生物学の知識が多少なりとも必要になるので、ただ何の気なしに読めるというものでもない。疎い私は、細かい点にはあまり拘泥せず読み進むことにした。
脳科学とは言っても、大脳生理学という形で捉えられる分野がここに紹介される。実に面白い。人間の脳のもつ一種の「曖昧さ」が、神経細胞とその伝達物質の如何なる点において現れてくるか、この本ではっきりする。いわゆる目の錯覚が何故起こるかについての一つの説明も、なるほどと肯けるものである。
こちらが、その場にいる中高生になったような気持ちで、楽しむことができた。いや、それは、ただ楽しむだけではない。哲学的な問いと、無縁ではないとも思うのである。
カント的な認識論を彷彿とさせるような世界観も現れてくるし、そもそも「心とは何か」という問いあたりからこの本が始まっているわけだから、科学の問いは、哲学の問いと背中合わせだということが、何故かはっきりしてくる。
最後のアルツハイマー病についての詳しい言及は、専門家でなくとも興味をそそられた。そして、そのシステムについて今どれくらいのことが分かっているか、という点において、実に示唆の多いものを得られたと喜んでいる。
読むうちに、私の頭の中にも、いろいろな問いが生まれてきた。その私の脳を捉えるにはどうすればよいか。自己認識という、近代哲学が悩んだ問いが、多少違った形で甦っている。