本

『子どものいない女性の生き方』

ホンとの本

『子どものいない女性の生き方』
くどうみやこ
主婦の友社
\1400+
2020.1.

 タイトルには冠のように「誰も教えてくれなかった」という文字が添えてある。そしてどこか切ない、ひとりの女性が正面を向いているイラストの表紙。
 著者自身、その生き方をすることとなり、しかしそこを自らのマーケティングの場として捉え、「マダネ プロジェクト」を立て上げたのだという。もともと情報発信からメディアに関する執筆や講演など多岐にわたる活躍をしていた人である。従来の思考枠や社会風習の中で特定の殻に制限されているところを撃ち破るような、新しい考え方、価値観を主張し、希望在る生き方を目指そうとする働きを目指しているように見受けられる。
 子どものいない女性、そう聞くと私たちはどのような姿を想像するだろうか。結婚しないという選択肢をとる人も増えてきた以上、独身女性だろうか。もちろんそれもある。他方、結婚をして、あるいはそれと同等の立場にあって、パートナーがいる女性でも、子どもが産まれないというケースがあることに気づく。不妊治療をしていた人は身近にも幾人が知っている。病気や事故のために、妊娠ができなくなった、ということもあるだろうし、子どもができることを望まないで過ごし続けたカップルもいるかもしれない。置かれた情況は様々である。
 しかし、問題は、そのことだけではない。もちろんそれを寂しいと思う気持ちもあるかもしれないが、周囲の圧力や眼差しである。まだ産まれないのかと突いてきたり、いまなお嫁して子なきは去れ、との親や家も現実にあったりするのだという。
 それが辛くてたまらない、というのは、医学的な面だけではなく、あるいはそれ以上に、苦しいものでありうるのだ。しかし、こうした悩みは基本的に、公にはなかなかできなかった。また、そんなことで悩んでいることは悪いことだという思いに苛まれ、誰にも言えなかったということは、多くの女性に共通しているのではないかとも思われる。
 本音を話したいけれど話す場がない・ほかの人の気持ちを聞いてみたい・同じ立場の人とつながりたい。これが本書を開いて最初に見える文字である。だから、遠慮がちに載せられていた「誰も教えてくれなかった」という言葉は、実に重いのだ。
 このような女性の現実の姿をリサーチして、またそこにある苦悩の性格を説くなどするのが本書の前半である。しかしなお、生き方の多様化と言われて久しい世の中で、ひとつの価値観としていわば堂々と生きることへの道を拓こうとする希望を投げかけもする。パートナーがいる場合、その夫との関係にも様々な場合があるし、男性も子どもがいないことでいろいろ思うところはあるだろうが、やはり女性の苦悩はひとしおであろう。その心理がどのような過程を経ると考えられるか、そうした分析もある。自分だけの悩みではない、と知るだけでも、いくらかでも心の負担が軽減されることがある。また、そこからいきいきと過ごしている女性のエピソードも、参考になるかもしれない。
 というわけで、本書の後半は、様々な女性の実例がたくさん並べられている。いろいろなケースがあるので、お悩みの読者は、自分に似た経験をしている人の証しに、ここで出会うかもしれない。
 最後に、子どもがいないということについての、法的なことを含む現実的な問題や、より積極的に生きていくための考え方のヒントが挙げられていて、しかも著者自身がその先駆者として手を繋いでいこうというような、力強い姿を見せてくれるように思う。
 辛い気持ちでこの本を手にする人がいることだろう。けれども、この本はかなりいいと思う。旧に明るくなれるものではないにしても、何らかの光が射すと言えるのではないだろうか。もしかすると、著者とて、いろいろ非難したい相手がいようかと思うが、そういうことを吐き出すことで解決しようというのではなく、あくまでも悩む女性に寄り添い、共に歩みたいという思いを前面に出していることが、爽やかである。表に出すことがない苦悩が、ひとにはある。これと同じ悩みにない人が、悩む人を少しでも慮って、特別なことはしなくてもいいから、せめてそういう人を追い詰めないように、気遣いができるような社会でありたいと願う。そして自分もその一員となりたいと思う。




Takapan
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